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SHALOCKMEMO 151〜200
2005/05/16〜2005/09/25

No SHALOCKMEMO
200 2005/09/25 スーザン・スペンサー・ポール Susan Spencer Paul 「剣を我が手に The Stolen Bride 2000 木内重子/訳」
ハーレクイン・ヒストリカル HS-141(02.08/\903/284p)
 ついに200冊を達成。本書の内容もさることながら,200冊達成にまずは感謝。本HPでは日記を作成していないので,斜麓駆の思いを伝えられるのはこのページだけ。あえてそのようにしたのは,このページを見ていただく方の利便性を考慮したためであり,私事の細々よりは,書に直接向かう姿勢を大切にしたいという思いからでもある。
 愛と称号と財産とをテーマにするヒストリカル・ミニ・シリーズ第5作。
 前作「美しき女戦士」では,セネットとキャサリンのロマンスを描いたが,本巻ではセネットの親友で,そうか著者は,4人いるので四天王を意識したのかも・・・。セネット,ケイン,ジョン,アリック。すでにジョンは前作で予告されているがクラリス・ルヴォーと結婚し,ということは大金持ちになり,キャップウェルの領主になっている。出自の明らかでないジョンは結婚のためにはボールドウィン家の養子になるという手続きが必要だった。最も面倒をみてもらったジャスティンではなく,ジャスティンの長兄ガイア領主アレックの養子になったようだ。このジョンとクラリスのロマンスの詳細については,まだ,十分には語られていないが,期待できそう。
 さて,本巻のヒーローはケインである。ジャスティンがタルワーを取り戻すときも,いわゆる四天王の年長者であり,最も信頼していたのは,このケインだった。落ち着いた良識の人というイメージ。そのケインの出自の秘密がさっそく明かされる。そして出自を隠して”素性の知れないケイン”として,落ち着いた先がアールグレンのワース村。村のじいさんの鍛冶屋を買い取り,付近に小振りの城ほどの立派な屋敷を建てて,謎めいた生活をする。アールグレン城の女主人はマルカム・アールグレンの一人娘ソフィア。本巻のヒロインである。
 ケインとソフィアのロマンスには存在感のある敵役が登場。ソフィアの求婚者でモールタン領主のグリエル・ウォレス。その邪悪で独りよがりの性格は,悪人の典型と言えるキャラクターになっており,ケインの潔癖で気高い性格を浮き彫りにするのに格好の存在となっている。まさしく正と邪。しかし,グリエルの悪巧みに愛想を尽かす高潔の士が何人も登場し,後半は連れ去られたソフィアをモールタン城から救出すべく,四天王はじめボールドウィン家総出演で,丁々発止の戦いが繰り広げられる。そして内部に潜入するサー・ジョンと少年ドムナル。ハラハラドキドキの救出劇の後,ケインとソフィアが知るのは,ケインに殺人を犯させまいとする四天王の活躍。まさに胸をなで下ろし,さわやかな結末をしっかり演出する著者のうまさが光る1巻となっている。
 前作のヒロイン,キャサリンと正反対の本巻のヒロインソフィア。小柄で愛らしく,しかもしっかりした性格。お利口さんのお嬢さん,育ちの良さを感じさせる魅力あるヒロインとして描かれており,これほど正反対のヒロインを描き分ける著者の手腕にさらに拍手。
199 2005/09/23 スーザン・スペンサー・ポール Susan Spencer Paul 「美しき女戦士 The Caprive Bride 1999 古沢絵里/訳」
ハーレクイン・ヒストリカル HS-116(01.07/\903/284p)
 愛と称号と財産とをテーマにするヒストリカル・ミニ・シリーズ第4作。
 まだハーレクイン文庫版は出ていないので,HS版を購入。このシリーズも初めの3巻がボールドウィン家の兄弟たちの略奪結婚のパターンだったが,前作「花嫁泥棒」では,ヒーロー,ジャスティン・ボールドウィンが様々な境遇の子供たちを騎士にすべく全力で修行をさせているおり,それを生き甲斐の一つにしていたが,夫人になるイザベルの弟セネットを救出したときにその子供たちのキャラクターが描かれており,あたかもHOLMESのベーカー・ストリート・イレギュラーズのような,いやちょっと違うかな,豊臣秀吉の子飼いの武将たちのようなといった方が時代がかっていてよいかもしれないが,とにかくセネットを含めた騎士たちがヒーローとして登場するシリーズに発展している。
 本巻では,まさしくそのセネットがもともとの領地ロマを取り戻し,その領地を女一人で治めていた女主人=セネットが女戦士と呼んだキャサリン・マルサスとの愛を成就させる物語。
 まずは表紙絵。遠景にロマ城の白亜の城があり,中景にはセネットが腰の剣に右手をおいてたっている姿,そして近景にヒロインの女戦士キャサリンが描かれている。文中では終末付近でワインレッドの花嫁衣装を着て秘密の部屋でけがをしたセネットを介抱する美しい女戦士として描かれているが,表紙絵では手に花束を持ち,右後方を振り返ったキャサリンの表情がくっきりと描かれている。切れ長で大きな目,色は深いブルー。鼻筋が通り,口は横一文字に大きく,唇はふっくらしており,顎ががっしりしていかにも頑固で意志の強さを感じさせる美人として表現されている。
 時は1437年。前作よりさらに9年後。キャサリンは14歳から女主人としてロマを経営しており,21歳の今,王族からかつて領主だった男の息子(セネット)に領地が返還されるという通知を受ける。しかも彼女を花嫁にするという条件付きだった。たった一人で自分を犠牲にして荒れ果てていたロマの地を現在の豊かな領地に変えてきた実績と何よりもロマを愛する気持ちが強いキャサリンは,国家の裏切り者の息子であるセネットには初めから憎しみを感じており,なんとか領地の支配を奪われないように,ある企みをする。キャサリン自身は背が低くでっぷりして髪が後退した50がらみの男ハンリー卿と婚約していたものの,卿は巡礼の旅に出たきり数年間音信不通であり,もうすでに他界したものとして世間では扱われていた。いとこのキアランは見栄えもよく,陽気で誰にでもすかれる性格のハンサムな男だが,風来坊であり,美しい女性には次々に声をかけるという浮気者。そのキアランを偽のハンリー卿として偽り,婚約者として紹介することで,セネットとの結婚を逃れようとする。
 しかしセネットはこれまで領地をうまく経営してきたキャサリンの手腕を認め,共同統治のような形を認め,キャサリンに尊敬の念を抱く。これまで,結婚とは女性が男性に従い,家庭内の細々した仕事をするだけの存在だと思っていたキャサリンは最大限自分の立場を尊重してくれるセネットに心を開き初めはするが,二人は事あるごとに意見を対立させてしまう。キャサリンは14歳から女主人としてロマを経営してきており,友達の三人の女性がそれぞれ,厨房や針仕事,洗濯などを分担してキャサリンの統治を手助けしてきた。キャサリン自身はこのような城内の細々したことはせず,領地内のもめ事の裁決をすることでその手腕を発揮してきたので,妻の立場になればそのような自分の才能を生かす場はなくなってしまう。常にたくさんの城内の人々の生活を支えるには,料理,針仕事,洗濯はそれぞれ大量のものの管理と召使いたちに的確な指示を出し,うまく使っていく才覚が必要であり,それぞれに広範で,専門的な知識も必要とされるものなのだろう。そのことが本巻を読むと容易に想像される。
 そんなキャサリンの思いこみを払拭するセネットの包容力は,領地の経営者としての大きな才覚の一つであろうし,リーダーとして必要な心構えであろう。この時代ではいわゆる常識を越えたリーダー性を発揮していることになる。だがこれは現代に通じるリーダーとしての才能を表していると思う。そんな読み方もできるだろうか。
 さて,二人が互いの心を通わすことができたかなと思われた頃,予想通りキャサリンが画策した偽婚約者が登場し,後半はどたばた喜劇と,冒険譚になる。そして最後に二人はどのように心を開き,愛を確認しあうのだろうか。その興味が後半を引っ張る。二人とも互いに人にはあまり話さない過去の秘密を抱えており,それを打ち明けることで互いの心の奥深くでの秘密の扉を開いていく。人と人が心を開きあうというのはそういうことなのではないかという作者のメッセージが強く表れている。大団円ではシェイクスピアの「十二夜」のような幕切れとなり,実に見事な舞台劇を見終わったような感動を読者に与える。
198 2005/09/20 キャシー・G・サッカー Cathy Gillen Thacker 「パラダイスの誘惑 Taking Over the Tycoon 2003 南 亜希子/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-1070(05.08/\704/220p) デブロー家の伝説
 デブロー家の伝説の1巻ではあるが,いわば番外編。デブロー家のウィニフレッドと執事ハリーの大人のロマンスが伏流のように暖かい流れをなしているし,ヒロインのクリスティ・ニューマイヤーとヒーローのコナー・テンプルトンの間に,クリスティの双子の娘,サリーとスージーが軽々と動き回り,頑固で頭脳明晰な事業家クリスティの性格を和らげているため,南部らしいほんわかした雰囲気が全編を流れている。コナーのビジネスマンらしくない人柄の良さも大いに貢献しているかもしれない。
 物語は亡くなった叔母からリゾートホテルを譲り受けたクリスティが時代遅れのホテルを建て直すために全人生をかけているのに対して,その土地に新しいリゾートホテルを建てようとしている大手の不動産会社から送り込まれた,ハンサムでセクシーな共同経営者コナーが現れ,クリスティのホテルの改修を手伝う羽目になることから始まる。次第にクリスティに惹かれていくコナーは,かつて,妻の自殺(事故?)に会い,結婚生活におそれを抱いている。クリスティは両親はじめ周囲の家族がみんな医者という家系に生まれ,医者と結婚するものの,夫は家庭を顧みないで過労のため心臓病でなくなっていた。愛に溢れた家庭という夢を信じられない二人が互いに惹かれる気持ちを持ちながらもなかなか結婚に踏み切れず,ましてや子持ちの女性に,上流階級のコナーがどういう愛情を持ち続けられるかという興味と,これはなにか事件が起こらなければ二人の結びつきは深まらないな,と思っているとき,ちょうどよく起こる自然災害,つまりタイフーンが二人を自然に結びつけてしまうというありがちな展開だが,そこはシリーズものの強み,二人を応援する人物たちが次々に登場して,ハッピーエンドに一直線。
 表紙の美しい海と砂浜に出てくる大人の美男・美女そのままで,常に生暖かい南部の風が全編を通じて吹き渡る,暖かな1編。
197 2005/09/19 デブラ・リー・ブラウン Debra Lee Brown 「聖剣に守られて The Mackintosh Bride 2001 下山由美/訳」
ハーレクイン・ヒストリカル HS-228(05.09/\903/284p)
 時は1192年,スコットランドハイランド地方。チャタン氏族の一つ,マッキントッシュ氏族のイアンは,目の前で父を殺されるが,12歳の彼にはそれを止める力はなかった。イアンは一人の少女と数ヶ月前から森の中でこっそり会うようになっていた。しかし,その名前も素性も知らなかった。そして,たった一つグラント氏族に対する復讐心を胸にイアンは行方をくらます。そのとき,一本の聖剣を少女に託しながら。
 それから11年後。
 グラント氏族の厩番頭夫婦の娘アレナ・トッドは,美しい19歳の娘に成長していた。グラント氏族の領主レイノルドは,美しく,実はフランス貴族アングレームの娘であるアレナに邪な心を抱いていた。一方アレナは仕方がないこととは思いつつも,11年前の少年との約束を胸に秘め,領主レイノルドとの結婚を望んではいなかった。そして,ある夜,アレナは家を抜け出す。
 イアンと再会を果たしたアレナだが,イアンは彼女が11年前に約束した少女の成長した姿であることに気づかなかったが,美しく,馬に対するしっかりとした技術を持つ彼女に惹かれていく。
 二人は果たして結ばれるのか。その興味を盛り上げるのはアレナの本当の素性。アングレームの娘というだけではなく,本当は驚愕の秘密が隠されていた。また,マッキントッシュ氏族やイアンの叔父のデイヴィッドソン氏族の人々にアレナは受け入れられるのだろうか。子馬の出産でアレナが見せた見事な技術や荒馬である黒馬デスティニーに鞍をつけずにまたがるアレナの姿は,さぞや周囲を驚かし,男たちにも憧れの気持ちを抱かせたであろう。
 さて,4つの氏族を糾合し,グラント氏族に奪われたフィンドホーン城を奪還しにイアンは出発するが,仇敵であるグラント氏族の出であるアレナはなんとか両者が血を流さずにすむようにと考え,一人馬を走らせる。そして領主レイノルドの暗い陰謀を暴く証拠となるのは,なんと11年前にイアンに預かって秘密の場所に隠していたあの聖剣だった。
 表紙には花の冠をかぶり白いドレスを着た若い女性が一人城内でろうそくの炎を背にしているが,いわゆるキルトをあしらった服装で描くべきではなかったろうか。文中プレードという単語が数多く散見される。タータンチェックのPlaidのことを指していると思われる。[参照] 読み方によってはプライドであり,翻訳の下山由美さんが,あえてカタカナ表記したのは,非常に優れた隠喩となっているように思う。
196 2005/09/18 ゲイル・ウィルソン Gayle Wilson 「復讐の鐘が鳴るとき The Bride's Protector 1999 仁嶋いずる/訳」
シルエット・ラブストリーム LS-234(05.03/\704/228p) 孤高の鷲1
 CIAの対外安全対策チーム。それは特別な任務を受け,殺しのライセンスを行使するチーム。そのリーダーでありもっとも尊敬を受けていたグリフ(グリフィン・キャボット)が亡くなった。グリフの敵を討つためにホークことルーカス・ホーキンスは国際的テロ組織のリーダーをCIAの命令ではなく,グリフのためにシゴトをした。
 泊まっていたホテルで彼の部屋に飛び込んできたのはウェディングドレスを着たスタイル抜群な美女。結婚式を目の前にして追われているという。ドアをたたき,警備のものですがと名乗る男たちに,とっさに奥の部屋に彼女を隠したホークが,このあとタイラー・スチュワートと名乗る,今話題の美女と深く関わることになろうとは。
 タイラーの婚約者アミール・アル=アフマドは大富豪で王子。国王である大富豪で父のシーク・ラシャドを迎えにでようとしたところで,父王はホテルの入り口で狙撃されてしまう。タイラーはその犯人が婚約者のアミールのボディガードを含んだ3人の男たちで,アミールの部屋から狙撃したことを偶然みてしまい,犯人たちに追いかけられたという。ホークとタイラーは機転を利かせてホテルから逃げ出し,南部へと車で逃亡する。しかし不幸なことにその時ホークの顔が防犯カメラに納められていたことから,ホークはタイラーの安全を確保するために,かつてのチームの同僚ジョーダン・クロスの助けを借り,グリフの恋人だったクレア・ヘイウッドと連絡を取る。
 CIAの作戦副部長カール・スタイナーとの取引でとりあえずタイラーの安全と,ホーク自身の「失踪」を演出することができたが,自宅に戻ったタイラーを待ちかまえていたのはアミールだった。
 息をつかせぬ冒険譚と愛を知らない非常の男と元モデルとの熱い恋。ノンストップ・ロマンチック・サスペンス・シリーズの幕開けにふさわしいシリーズ第1作。
195 2005/09/17 スーザン・スペンサー・ポール Susan Spencer Paul 「花嫁泥棒(愛と称号と財産と3) The Bride Thief 1997 小池 桂/訳」
ハーレクイン文庫 HQB-10(05.09/\714/369p)
 愛と称号と財産とをテーマにするヒストリカル・ミニ・シリーズ第3作。
 全作「逃げた相続人」でヒューがロザリンを手に入れてから9年後の1426年春ヒューは伯爵としてボールドウィン家ではもっとも身分が高くなっており,ロザリンとの間に子宝にも恵まれている。ジョン・ロウゼンリーの息子クリスはブライアストーンの領地をヒューに返してもらい治めているが,ヒューの弟ジャスティンとの友情を育んでいる。ジャスティンはタルワーという貧しい領地を治めながら,騎士の修業をする少年たちとともに,苦しいながらも領民に愛され,領地の経営を順調に行っていた。そんな1426年6月,ジャスティンは兄のアレックスに月末までに結婚する相手を見つけなければ,領地を没収すると通告される。兄としての心配から身を落ち着けるようにいわれたことはわかっているものの,まだ領地経営や少年たちの修行指導で忙しいジャスティンとしては,先に思いを寄せていた女性から裏切られたこともあり,結婚は全く考えていなかった。しかし,兄ヒューから紹介された女性は男爵家のサー・マイルズの跡取り娘イヴリンだった。絶世の美女と称されているイヴリンだが,その性格は高慢で,たとえ結婚しても,田舎の領地であるタルワーにはふさわしくない。さらに,何度求婚してもなにくれと理由をつけて承諾を引き延ばしているサー・マイルズだった。
 サー・マイルズには両親を失って引き取っている姪のイザベル・ゲイラールに会計と帳簿付けの仕事をさせ,召使い同様の扱いをしているが,イヴリンに比べると見劣りする服装のイザベルには,おまえは美しくないということをことあるごとに吹き込み,イザベル自身も自分の容貌や性格の美しさに気づいていない。ジャスティンはイヴリンがかつて自分を裏切った女性と同じ性格であることを見抜き,イザベルの方を愛しているが,一計を案じ,イザベルをロンドンから連れ去り,親友クリスや兄ヒューゴー神父の協力を得て,結婚する。イザベルはその賢さと気持ちの優しさで,タルワーの修行中の少年たちや領民に愛されるようになるが,事情を知らない兄アレックスは自分の言いつけを守らなかったジャスティンを叱責するためにタルワーにやってくる。ところがかつて自分の財産を殖やしてくれ,手紙でしか知らなかった頭文字IGの男がイザベルだと知ると,すっかりイザベルを気に入ってしまう。そんな時,ジャスティンにすっかりだまされたと思っているサー・マイルズとイヴリンの陰謀の影が忍び寄っていることをジャスティンとイザベルは知らなかった。二人の運命は・・・。
 ボールドウィン家のたくましい男兄弟たちの互いにぶつかり合いながらも信頼しきっている家族愛やタルワーでの修行中の少年たちのジャスティンに対する忠誠心の強さなどの日向の部分と,サー・マイルズ親子の陰湿な性格がくっきりと描き分けられ,はらはらどきどきのジャスティンとイザベルの心のすれ違いを縦糸に,見事に描ききられた好編。
194 2005/09/11 赤川次郎 「枯葉色のノートブック 2005」
光文社文庫 (09.05/\560/295p)
 今年もまたこの時期がやってきた。赤川次郎の杉原爽香(さやか)シリーズ。毎年9月にヒロインが1歳ずつリアルタイムで年を重ねるというこれまでのミステリロマンにはなかった設定。
 ヒロインの爽香の魅力もさることながら,夫明夫の優しさ,爽香を尊敬し,陰日なたなく仕える麻生。どうしようもない兄,大女優栗崎など,魅力あふれる登場人物。毎号あとがきの代わりにいろいろな人が書く推薦文など,毎年この時期が待ち遠しい。
 さて,本号であるが,ミステリだけにあらすじを書くことは控えたい。また,タイトルの枯葉色のノートブックが何を意味するかもネタばれになるので,ここでは触れない。しかし物語中盤で登場するノートブックがこんなところで意味を持つのかという意外性もさすがakagawaと思わせる。
 ミステリもロマンスも好きという方には,絶対お勧め。
193 2005/09/09 エリザベス・ムーン Elizabeth Moon 「栄光への飛翔 Trading in Danger 2003 斉藤伯好/訳」
早川文庫SF1528 若き女艦長カイの挑戦 (05.08/\980/590p)
 エリザベス・ムーンの若き女艦長カイラーラ(カイ)・ヴァッタのシリーズ”The Vatta's War”第1巻。
 この巻では,航宙軍士官候補生として卒業間近だったが,親切心で後輩の面倒を見たことからトラブルに巻き込まれ,学校を退学させられてしまう。いわゆる不名誉除隊。カイはこれまでにも,親切心があだになり人生の重要な場面で損をしてきている。傷心のまま実家にもどったカイを待っていたのは,廃船寸前の貨物船<グレニーズ・ジョーンズ>の艦長という役割だった。そう,カイの実家は惑星スロッター・キーで航宙運送業を営む一家。
 軍艦と商船という相反する職業の双方を知ることになるカイ。ヴァッタ家の血が,会社に命じられたとおり動く艦長ではなく自立心の強い,自分で取引をまとめようとする商売人としての血が騒いだのか,目的地を離れて立ち寄った星で戦争に巻き込まれ,次々と困難に出会うことになる。しかし一緒に乗り込んだ老練な乗組員たちは,若い艦長のカイを信頼し,トラブルの中で出会う傭兵軍の士官たちからも信頼を受けることで,トラブルを乗り切る。
 サイボーグ的に脳に埋め込まれた小型のコンピュータや頭蓋骨通信機器など肉体的改造を加えられた登場人物たちが縦横に登場し,若き宇宙船艦長が大活躍する胸のすく一巻。お勧め。
192 2005/09/03 アレキサンドラ・セラーズ Alexandra Sellers 「シークの人質 Sheikh's Ransom 1999 山野紗織/訳」
ハーレクインプレゼンツ作家シリーズ P-237(04.11/\683/156p) D-834(00.03)
 砂漠の王子たちシリーズの第1巻。プロローグでこのミニシリーズの共通の事情が説明されている。砂漠の首長国バラカット(中東か?)の王の二人の王子が事故で同時になくなり,あわてて3人の新妻を迎えた王にはそれぞれ王子が誕生する。王位継承者を決める段になり王は国を三分割し,共通の宰相を置くことで,国がバラバラになることを防ごうとする。さらにそれぞれの王子には三種の神器を分けて相続させ,互いに争わないことを約させる遺言を残す。
 第1巻の本巻では1998年,西バラカットを納めるプリンス・カリム(サイード・ハジ・カリム・イブン・ダウド・イブン・ハッサン・アル・クライシ)は,三種の神器の一つであり,西バラカットの象徴である印章が偽物とすり替えられていることを知り,アメリカのコレクター,デヴィッド・パーシーが犯人であることを突き止める。しかしマスコミに知られることになると国民に動揺が走り,内戦が起こることを懸念し,ある計略を練る。
 デヴィッド・パーシーの婚約者のキャロラインは,バラカットの富くじで旅行に当たりデイヴィッドを誘うが,行かないという。一人で行くことにするが,デイヴィッドとの結婚は親のために玉の輿に乗ることであり,心から望んでいたことではない。
 バラカットの空港に迎えに出たガイドのカイファルはカリスマ的な魅力のある男性だった。カイファルは実はプリンス・カリムであり,印章を取り戻すため,デイヴィッドと直接交渉をするために富くじの企画を考えたのだが,肝心のデイヴィッドではなく,キャロラインがやってきたため,急遽計画を変更せざるを得なくなる。
 その事情をキャロラインが知ったのは,カイファルに愛を感じ,デイヴィッドに婚約解消のため婚約指輪を送り返し,熱い一夜を過ごした後だった。そして自分が人質であることも知り,愕然とする。
 キャロラインの運命は? デイヴィッドは身代金の支払いを強く拒否する。両親は果たしてキャロラインを救うためにデイヴィッドを説得してくれるのだろうか。自分を誘拐したシークを信じるべきか,元婚約者のデイヴィッドを信じるべきか。キャロラインの心は揺れる。
 エピローグは本巻の大団円にふさわしく,印章が本物であることを報道するシークの発表で告げられたことは・・・。
191 2005/08/28 ミランダ・リー Miranda Lee 「愛を試す一週間 The Magnate's Mistress 2004 藤村華奈美/訳」
ハーレクイン・ロマンス R-2058(05.08/\672/156p)
 ホテル王とそのホテル内の高級宝石店に勤める美貌の販売員のロマンス。ミランダ・リーらしいセクシーな作風と地元シドニーの良さが存分に表された一作。原題の"Magnate"は「富豪」の意。
 邦版表紙のヒロインはゴールドの髪で小柄だが,抜群のプロポーションを誇り,細いあごや小さな鼻,閉じた瞼がセクシーさを十分感じさせるが露わな肩は筋肉がしっかりとつき,頑固そうな雰囲気が出ている。若々しいヒロインの様子は本作に十分合っている。またヒーローは黒い髪に整った顔立ち,背はヒロインよりやや高く,ヒロインの腰に回された手は大きく,たくましさを表している。
 ストーリーは,高級宝石店の入ったシドニー,リージェンシー・ロイヤル・ホテルのオーナーでヨーロッパやアジアにも数点の高級ホテルをもつ富豪のマックス・リッチモンドとその宝石店の販売員タラ・ボンドのロマンス。バージンを捧げたタラだが,マックスはなかなか結婚ということを言い出さない。いつどのような形でふたりのロマンスが成就するのか。ついにタラがマックスに課したこととは,「愛を試す一週間」だった。
 「愛すること」がふたりの間だけではなく,ともに互いの両親や家族との間でも滞っていたが,その家族との愛の関係もスムーズになって初めてふたりの愛が実るのだということが示される。
 そして,シドニーらしさを表す箇所,「二月の末はまだ夏ではあるものの,観光シーズンを過ぎている」など,南半球の特色もちらちらと表されている。
 同月にベリー・ベストRVB-05「王子様は,ある日突然」も発売されている。
190 2005/08/23 トーリ・キャリントン Tori Carrington 「甘い関係 Flavor of the Month 2003 若宮桃子/訳」
ハーレクイン・ブレイズ BZ-27(05.07/\725/220p) 「キスの迷宮2」
 シリーズ第2弾。SHALOCKMEMO165でめでたく結ばれた医者のレイラ。他にプロデューサーのマロリー,パン屋のライリーの二人の女性,そしてコラムニストのジャックと親友4人組のうちパン屋のライリーがにぎやかに登場し,ライリーとレストランのオーナー=ベンのちょっと変わった愛のかたちが描かれている。
 幼い頃「太っちょ」と呼ばれ,傷ついてきたライリー。舞台となるハリウッドではほとんどの人がダイエットに血道を上げ,さらにテレビ映画ティック・タックに代表されるように持って生まれたよりも整形により顔かたちをつくろうとする街。そんな中で,太っているというだけで既に人間としては認められないと本人も思い込んでいる。一方ヒーローのベンは人もうらやむ整った顔とスマートなスタイルの持ち主。当然ヒロインのライリーは自分はベンにはふさわしくないと考える。しかしライリーにはおばあちゃんから受け継いだ甘いものに対するすばらしい感性とお菓子やパンとして表現するだけの料理の技量がある。
 ライリーの周囲の家族も友人もベンには気をつけろ,という。しかしライリーの姪のエフィだけはライリーの技術や人柄のすばらしさを理解し,早くライリーの店で働きたいと常日頃言っている。ベンは外見も含めてライリーに好ましい感情を抱く。しかし,ベンとライリーが付き合いだしてからベンの周囲で注文の間違いや停電などのこれまでになかった事故が連続して起こる。このあたりからロマンスとサスペンスがほどよい割合で読者の注意を惹いていく。
 トーリ・キャリントンはトニーとローリーの夫婦の作者の合作ペンネーム。ロマンス色とサスペンス色が非常によいバランスで描かれるのみならず,それぞれの登場人物がいきいきと描かれているのは,二人の合作によるものかもしれない。
 やがて,ライリーの元でも店舗兼住宅がライリーが留守の間に火災により焼失するという大きな出来事があり,すっかり落ち込んだライリーを励ますために友人たちが代わる代わるライリーを訪れる。そしてベンがライリーへの思いを再び伝えるためにとった行動が振るっている。
 「太っちょ」と「でぶ」をどのように描き分けるかがキーワードになるがベンとライリーのちょっと変わった愛のかたち,そしてストーカーの存在,姉や父親との確執など,それぞれの人間模様を描いて,ウーンとうならせ,考えさせる一作。
189 2005/08/16 ダイアナ・パーマー Diana Palmer 「危険なハネムーン The Tender Stranger 1985 桂 幸子/訳」
ハーレクイン・プレゼンツ・作家シリーズ別冊 PB-23(05.05/\980/470p) 「危険な兵士2」
 ダイアナ・パーマー「危険な兵士」シリーズの第2弾。前作SHALOCKMEMO179に登場した兵站専門家ダッチと書店員でロマンス小説フリーク,ダニエル・セントクレア(ダニー)のロマンス。
 サウスカロライナ州グリーンビルという小さな町の書店員ダニー(26歳)は休暇でメキシコのベラクルスへサンアントニオで開かれたロマンス小説家の大会から移動していた。飛行機の中で隣席に座ったダッチ(本名エリック・ヴァン・ミアー,36歳)と会話を交わす。偶然同一ホテルに宿泊した二人は会話を愉しむうちに互いに惹かれるようになる。ついに二人は互いの気持ちを確かめ合い,町のチャペルで結婚するところまで一気にいってしまう。互いにすでに両親は他界し,さらにダッチは恋人をすでに失っており結婚は自分には縁のないことだと思っていたのに,ダニーに惹かれる気持ちの方が強かった。しかし,結婚式を挙げては見たものの互いに愛する気持ちに確信が持てないまま結婚という形式をとる。なかなか惹かれ合ってはいても結婚まで踏み切れないというロマンス小説がおおいの中で,早々と結婚式を挙げてしまう二人は,その後必ず何か別なテーマがあるのではと思わせる。アメリカへの帰国の途中,乗った飛行機がハイジャックにあってしまう。結婚してもダッチはダニーに自分の職業を明かしてはいない。しかし,ハイジャック犯人を一人で倒してしまったことから,職業を明かすことになる。なるほど,結婚しても普通の家庭的な生活は望めないのだとダニーがあきらめの気持ちをもつことから,ダニーは離婚を迫る。しかし,ダッチはそのまま仕事に出てしまったために十分な話し合いができないまま数ヶ月が過ぎる。その間,ダニーは自分が妊娠していることに気付く。
 そうか,そういう仕掛けだったかと思わせるロマンスの展開になっていく。孤独なダニーのたった一人の理解者ハリエットは,ダニーの側でダッチを判断しようとする。またダニーの妊娠を知ったダッチは,最近結婚したばかりのJ・Dとガビーにこのことを相談する。
 さて二人の間に本当の愛は生まれるのだろうか。また二人の子供はどうなるのか。後半もスピーディに予想どおりのストーリーが進んでいき,あっという間に読み終えてしまった。まさに,ストーリーテリング,ダイアナ・パーマーの真骨頂。
188 2005/08/16 ノーラ・ロバーツ Nora Roberts 「止まらない回転木馬 Lessons Learned 1986 中川法江/訳」
MIRA文庫 MIRANR01-23(05.08/\760/284p)
 久々のノーラ・ロバーツ。今月のMIRA文庫新刊。1986年の作品とあって,携帯電話もコンピュータも出てこないので古さを感じさせるが,その分ヒューマンな感じが出ていて良かった。元気で爽やかなアメリカ娘ジュリエット・トレントがヒロインのメリー・ゴーラウンド・ロマンス。ゴージャスで金持ちで才能に恵まれたイタリア人シェフ,カルロ・フランコニの出版キャンペーンを実行する宣伝係(パブリシスト)が二人三脚で,ニューヨークからロサンゼルス→サンディエゴ→ポートランド→シアトル→デンバー→ダラス→ヒューストン→シカゴ→デトロイト→フィラデルフィア→ニューヨークとメリー・ゴー・ラウンド(回転木馬)に乗ったように周りながら互いの愛を成長させていく。「イタリア方式」というクッキング・ブックをひっさげ,テレビのインタビュー,サイン会などのハードなスケジュールをこなしながらアメリカ全土を渡り歩く。その合間のロマンス。夢があって楽しい。
 ジュリエットは上昇志向の28歳。カルロは母親と4人の女姉弟のもとで育ったため,女性の気持ちが手に取るように分かる。つまり自然な態度が女性の人気を得ることになるという存在。仕事と割り切り惹かれまいとするほどジュリエットの心に葛藤が起こる。イタリアでジュリエットといえば,あのシェイクスピアの劇中のロマンスのヒロイン。
 「ダラスは文句なくダラスだった。豊かなテキサス,大きなテキサス,そして傲慢なテキサスだ。」という言い回しはテキサス出身の某政治家を言い得ている。「愛はメリーゴーラウンドのようだ」,「ものには一緒になるように運命付けられているものがある」などの警句のような文言が随所にちりばめられ,リズムを刻んでいる。
 そして,アメリカ娘とイタリアで活躍するシェフのロマンスはどのように決着するのか。ノーラはあっといわせる決着を用意してくれた。
 重箱の隅の老人から。p78,3行目「古風で趣のある志向ですね」は「嗜好」の誤植か。またp131の17行目「手を差しだしたた」は明らかに誤植。
187 2005/08/15 ダイアナ・パーマー Diana Palmer 「あの日、パリの街で Once in Paris 1998 小林町子/訳」
ハーレクイン文庫 HQB-07(05.08/\714/348p) HQ(99.09/\1313/331p)
 UK版ハードカヴァーではモノクロのエッフェル塔のアップが背景に写されており雰囲気を出しているが,ペイパーバック版では真紅の色にパリの鳥瞰図的構成になっており,迫力がなくなっている。この文庫版ではヒロインがアップで表示されており,より分かりやすい表紙になっている。
 さて,夏のパリのルーブルで出会った男女。一人は10年連れ添った愛する妻を失い,生きる力をなくしているギリシャの富豪ピアス・ハットン。もう一人はまもなく19歳になろうとしている学生のブリアンヌ。再婚したばかりの彼女の母親は,夫との間に新生児ができて前夫との間の彼女をじゃまにし,パリの私立高校に寄宿生活を送らせるために送るような愛情薄い,金目当ての女。無邪気な彼女は会話の中でピアスに元気を与え,生きる目的を思い出させる。次ぎにレストランで出会ったとき,再びブリアンヌはピアスを励ますことになり,その後二人は衝動的にラスベガスで結婚式を挙げてしまう。ブリアンヌには初婚であり,ピアスに愛されることを求めるが,ピアスはいつまでも亡き妻マルゴの面影から逃れることができない。
 ブリアンヌの継父カート・ブラウアーは中東の首長国のフィリップ・サボンと共謀して石油の利権を得ようと画策し,戦争を起こそうとする。そんな折り,ブリアンヌとピアスはサボンの手により誘拐されてしまう。しかし,ブリアンヌはサボンの秘密を聞き,誘拐がやむを得なかったことと,継父の陰謀を知ることとなる。サボンも裏切られていたのだ。
 この二人を救うためにピアスの会社の保安部長テート・ウィンスロップが登場する。敵に対しては徹底して戦い,反面一人の女性に対してプラトニックな思いを抱くロマンチスト。そしてスー族出身であるなど,とても存在感のあるキャラクター。
 作者は1作の中にヒロイン,既に亡くなっているマルゴ,ヒーロー,サボン,テートなど印象的なキャラクターをふんだんに登場させている。まさに3冊分ぐらいの内容とサスペンスを満載した国際謀略ロマンス小説とでもいうべきジャンルの傑作を生み出している。
186 2205/08/15 ジョアンナ・メイトランド Joannna Maitland 「エマの結婚 Marring the Major 2002 井上 碧/訳」
ハーレクイン・ヒストリカル HS-207(05.02/\903/284p)
 邦題は”エマの結婚”となっているが原題は”少佐の結婚”,つまりヒーロー側の題名となっている。本作はSHALOCKMEMO185にも登場するヒーロー=キットの兄ヒューゴー・ストラットン少佐と貴族の娘でロンドン社交界の花形,エマ・フィッツウィリアムの結婚を描いている。
 時は1816年ウォータールーの戦いで重傷を負って帰国したヒューゴーは友人のハーディング家で傷を癒そうとしてやってきた。そしてそこにいたのは,幼なじみのエマのレディとして成長した姿だった。木登りや乗馬が好きで,お転婆な小娘だったエマは今ではロンドン社交界でも花形のレディに成長し,たくさんの貴族の男性から結婚を申し込まれていたが,全て断ってきていた。23歳でも既に適齢期を過ぎているという表現があるので,当時は早婚だったことが分かる。美人で家柄も良く,持参金もたっぷりある,今でいうセレブということになろうか。一方冒険心と愛国心にとみ,軍人としてナポレオン戦争に従軍したヒューゴーだが,能力のない上司で侯爵の腰巾着フォースター大佐が命じた無謀な作戦の犠牲となり,多くの同僚や部下を失い,身体だけではなく心にも大きな傷を負って友人の元に引き取られるようにしてやってきている。エマはこのヒューゴーに幼い頃から憧れをもっていたが,傷を負ったヒューゴーを慰めたいと強く思う。
 当時の社交界や貴族の生活状況,ものの考え方が多く描かれており,説明口調ではあるものの入門編としては大変参考になる1冊。おそらくヒストリカルを読み慣れた読者であればあまり良い評価を下さないかもしれないが,入門者としてはとても助かる。
 エプソムでの競馬の顛末,決闘の様子,結婚するための許可証の存在など,蘊蓄がたくさん出てきて,楽しい。
 ヒューゴーの弟キットが外国に行かざるを得なかった顛末や義姉エマとのニアミスなど,次作でも生かされているシリーズのエピソードが良くわかって,うんうんと頷きながら読了できた。この前作というべき「庭園の誓い」では,きっとヒューゴーの友人リチャードとジェミー夫妻のロマンスだったのかと想像できる。機会があれば・・・。
 表紙について;邦版のエマとヒューゴーはちょっと若すぎる感じがしている。ペーパーバック版(US)では二人の立ち姿でしかも後ろ姿。もっとも二人の雰囲気を伝えているのはFantastic_fictionのハードカバーの表紙。これはすばらしい。
185 2005/08/13 ジョアンナ・メイトランド Joannna Maitland 「名誉の代償 Rake's Reward 2003 小山マヤ子/訳」
ハーレクイン・ヒストリカル HS-226(05.08/\903/283p)
 ”rake”は道楽者,放蕩者の意。ストラットン家のクリストファー(キット)はどんな女性でも振り向かせずにおかない美形。兄のヒューゴーと美しい女性エマとの馴れ初めについては,関連作の「エマの結婚(HS-207)」や「庭園の誓い(HS-196)」にあると思われるが,外国暮らしをしなければならないほど女性と浮き名を流している所謂放蕩者。リージェンシーものと呼ばれる時代背景については,十分には理解していないが,ヒロイン=マリーナ・ボーモントは伯爵未亡人のレディ・ルースのコンパニオン(話し相手)に雇われる。
 時代背景が良くわかると,もっと感情移入しやすいのだろうが,この時代の女性の道徳観,社交界やクラブなどの社交場でのマナーなどは,かなり勉強しないと理解がむずかしい。今のところ,女性の行動や貴族たちの道徳観の強さにはいつも驚かされる。
 ヨークシャーからロンドンに着いたばかりのヒロインは「騒音と立ちこめる悪臭を無視しようとしたけれどだめだった。ロンドンがこれほど騒音に満ちているとは思ってもみなかった。」とあり(p15),馬車の旅の困難さや,大都会ロンドンの喧噪と汚れ具合を表している。また,レディと召使いの違いやそれぞれがふさわしい服装をすること,身分の違いが明瞭に示されており,「23歳といえば結婚適齢期を過ぎているけれど(18p)」という箇所や,「1800年のアミアンの和約のあと,父は妻子のためにイギリスに戻りました。(24p)」のように時代を表す箇所をしっかりチェックしておこうと思う。
 本作では賭け事が大勢の人々に重要な影響を与えることがあることをストーリーにうまく取り込んでいる。地所や財産,最たる場合には自らの生命さえも賭の対象にするイギリス人の生活は,我が国では想像もできないが,ディケンズでも時々登場する破産者のための監獄が貴族にとっては没落の最たる場所であったのであろう。また,カードゲーム,ファロの詳細なゲーム場面が著者の蘊蓄を十分に表していて楽しい。
 若干ネタバレにはなるが,郵便局で配達される郵便物がこの当時は配信に信頼を得ていなかったこと,また,イニシャルで十分に用が足りていたことなども時代性であろうか。
184 2005/08/11 エマ・ダーシー Emma Darcy 「愛は謎めいて The Outback Wedding Takeover 2004 藤村華奈美/訳」
ハーレクイン・ロマンス R-2044(05.06/\672/156p)
 終末の南半球オーストラリアはシドニーのクリスマス・パーティのシーンが描かれる。改めて南半球ではクリスマスは冬ではないんだということが実感される。”伝統的なクリスマスキャロルの集い”は”中庭”で”庭の四隅には豆電球が連なる胡椒木,中庭に面したベランダには見事な飾り付けをしたクリスマスツリー,その下にはプレゼントが置いてある。”つまり屋外でのパーティなのだ。
 「旅立ちの大地」シリーズの第2弾。前作「初恋は永遠にSHALOCKMEMO156」でヒーロー=リックを助ける弁護士ミッチと,リックのオフィスの補佐でララの逃亡の際にはミッチとリックの連絡係として重要な役割を果たすキャサリンの,いわば裏側の物語。
 ミッチは男性から乱暴された家族を身近にもっており,そのために十六歳の時リックやジョニーとパトリックの羊牧場で過ごすことになる。そのことが心のしこりとなり30代を迎えている。女性への乱暴をする男性に対して,怒りを抑えることがむずかしく,自分の野生の部分が女性を怯えさせるのではないかと恐れている。キャサリンが元婚約者のジェレミー・ヘインズから乱暴されそうになったとき,ミッチはキャサリンを救うが,その時ジェレミーに暴力をふるったことをキャサリンに見られており,そのことをキャサリンがどう感じているかをかなり気にしてしまう。そのことをキャサリンが分かるはずもなく,自分を救ってくれたミッチに優しさを感じる。このあたりの二人の心理的すれ違いがとてもうまい。
 みんなに好かれ,陽気なジョニーにはどんな過去があり,それを慰めてくれる女性は現れるのだろうか。第3作が愉しみ。
183 2005/08/09 ジーナ・ウィルキンズ Gina Wilkins 「悲しい契約 Countdown to Baby 2004 松田優子/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-1065(05.07/\704/220p) 「愛の女神たち2」
 30代後半,バツイチ,独身。結婚にはもう二の足を踏むが,自分の子供を産みたい。そして,育てたい。そんな切なる願いが込められた作品。ヒロインは第1作「しあわせな秘密(SHALOCKMEMO181)」にも登場するヒーロー,エリックの姉シシリア・メンドーサ。ヒーローはビンガム家のジェフ。
 ジェフはビンガム・エンタープライズの社長だが,休暇でマーリン郡に帰ってきている。町の描写や建物の位置関係などがそんなに明確には語られていないのが,HQの弱点。家族関係やそれぞれの部屋の内装,ヒーロー,ヒロインの衣装などはとても詳細に記述されるのに対して,具体的なキロ数や道幅などの数字の記述が極端に少ないため,現代物はどうもぼんやりしたイメージしかつかめない。ヒストリカルについては,やや説明口調が多くなるためある程度の記述はなされるが,現代物はページの制約もあるからか。この点を何とかして欲しいところ。
 ヒロイン,シシリア(弟エリックはシシと呼ぶ)はほとんど,エリックの母親代わりをして育て上げ,前夫にも愛想を尽かして離婚するなど,家庭的には恵まれなかったため,自立心が強く,裕福なビンガム家のジェフに声をかけられるとは思ってもみない。しかし,30代後半という年齢は原題にもあるように妊娠,出産には,すでにカウントダウンが始まっている年齢。そこで,たまたま食事に誘われたとき,思い切って,5歳年下のジェフに“悲しい契約”を申し出てしまう。つまり,後腐れなく,結婚はせずに,子供だけ欲しい。生まれたら自分で育てるが,子供に対して父親としての権利は行使して良い。という申し出でだった。
 こんな申し出に即答できる男性はいないだろう。怪訝な顔をしたジェフにシシリアはやはりだめかと,いやちょっと考えさせてくれ,という答えをするとすれば少しでも可能性があると,という互いの駆け引きが全体を通じて語られるが,これはこれでユーモラスというか,ちょっと悲哀を感じさせる大人の関係という感じか。
 最後は結婚まで行くのだろうなぁと思いつつ,こんな関係もありかな,と思わせてしまうところが,作者のうまいところ。ジェフの母親マートルにシシリアが会いに行くシーンは,第1作にも登場するマートルの人柄をかいま見させる部分。この人はシリーズの全体を通じて,ビンガム家を象徴し,一本筋を通すキャラクターだなと思わせる。それにしても男が優しすぎるシリーズ。
182 2005/08/07 クリスティ・ゴールド Kristi Gold 「砂漠の迷宮 Daring the Dynamic Sheikh 2004 速水えり/訳」
シルエット・ディザイア D-1094(05.08/\641/156p) 「独身貴族の賭3」
 「王様はプレイボーイ SHALOCKMEMO171」,「孤独な御曹子 SHALOCKMEMO174」と続き,本巻が解決編。ヒーローはアズリルのシーク,シーク・ダール・イブン・ハリム。賭の対象はモジリアニの絵。そしてヒロインはアズリルの首長の一人イドリス・カーリルの一人娘で母とともにアメリカの私大で美術講師を務めるライナ。
 本作ではとにかく二人が愛を交わす場所が変わっている。初めはシークであるダールがライナをアズリルに連れ帰る飛行機の中。飛行機といってももちろんシーク専用機。小型ジェットではなくバスルームからベッドルームまでついている特別機。高度一万メートルのスイートルームといった方がよいかも。さらには,王宮の塗装中であることから使える部屋が限られており,ライナはダールの部屋を使わせてもらうことになる。当然シークの部屋は豪華であることはまちがいない。さらに美術館の建設予定地である岩山のふもととか,とにかく二人は場所を選ばず互いにふれあおうとする。なのに,結婚に至るには多くの心理的壁を乗り越えるというのだから,ロマンスはむずかしい。
 ともあれ,三人の独身貴族がそれぞれベストパートナーを手に入れ,最後は大団円。煙が立ちこめた「サドラーズ・バー・アンド・グリル」での独身お別れパーティに6人の男女が集まるというお話し。
 斜麓駆としてはベストヒロインはなんといっても本作のライナ。ひたすらシークを想い続け,それを行動に移す行動力と,それでも自立した女性であり続けようとするプライドの高さには,王妃然とした姿勢の良さが表れている。
181 2005/08/07 スーザン・マレリー Susan Mallery 「しあわせな秘密 Expecting! 2004 朝霧こずえ/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-1061(05.06/\704/220p)
 ミニシリーズ「愛の女神たち」の第1巻。アメリカの小さな町を舞台に静かに優しく進行する愛の物語。こんな恋人がいたらいいだろうなという理想を描いているように思われる。
 ヒロイン=ハンナは婚外子として大富豪ビンガム家に生まれたが,その事実を告げられた後もなかなか一家に親しみを感じられない。東部の寄宿学校,大学,ロースクールと順調な独立した人生を歩み始めたが,結婚を考えていた恋人が自分の一族の金銭的な支援をあてにして自分に近づいたことを知り,恋人と別れる。しかし,そのときは既にその恋人の子供を妊娠していたのだ。
 ロースクールを中退し,故郷のマーリン郡に戻ってきたハンナは子供を育てるために一軒家を探していた。たまたま格好の物件を売りに出していたマーリン郡地域病院の管理職エリックに出会う。ハンサムなエリックはこれまで自分の出世を第一とし,長続きする女性との真剣なつきあいをしてこなかった。しかしハンナとの再会をきっかけとして,キャリアアップと家庭や子供に囲まれた静かでな生活に目覚めていく。
 大きな事件もなく,淡々と二人のふれ合いが描かれていくのだが,爽やかでほのぼのとした読後感。 
180 2005/08/05 ジーニー・ロンドン Jeanie London 「ある夜の出来事 About That Night... 2002 大谷真理子/訳」
ハーレクイン・テンプテーション・ブレイズ T-472(03.12/\724/220p)
 ヒロインは30歳の大学教授,ジュリエンヌ・ブレイク。通称ジュール。南部サバナ大学で歴史保全学という歴史的な建造物の補修なんかを担当する伯父サディアス・ブレイクの引退に伴う人事らしいが,30歳で実力さえあれば教授にするというのはいかにもアメリカらしい? と,いって良いのか,その辺はちょっと自信がない。
 ヒーローはニコラス・フェアファックス,歴史的建造物修復専門事業の経営者兼技術者。通称ニック。もっともアメリカで歴史的建造物といってもたかだか200〜300年ぐらいの歴史しかない国のこと故,ヨーロッパやアジアに比べたら普通の建物の補修とどう違うのかは分からないほどではあるが,いずれにしてもニックの会社は大統領の諮問委員会の業務を担当するほどの権威ある会社らしい。また,対象とするのはアメリカの建造物だけではないとも書かれている。
 プロローグでは30歳の誕生日を目前にしたジュールの「21日前」の記述から始まる。これまで男性とのつきあいは同僚のイーサンという,つまらない男とのぬるま湯につかったような交際だけ。青春期を伯父について世界各地の歴史的建造物を補習して回っていたというから普通の女の子たちがやるような「オトコ」探訪の経験はなかったらしい。そこで,「淫らな女性の性に関する淫らな手引き書」という本の記述を元に自己暗示をかけて心理的に変身しようとするジュールの試みに,このニックの登場は格好の出会いを提供するものだった。
 さて,いつものように,二人は互いに惹かれ合う。しかし,互いに世界を飛び回るような忙しい仕事では結婚生活は望めない。惹かれ合いながらもちょっと変わったつきあい方をし,どうにもならない深みに二人ともはまってしまうというパターンが繰り返されるが,ここいら辺の事情はさておき,ジュールを美しく変身させようとするカリスマ美容師ラモンは「ローマの休日」で王女の髪をばっさりやってしまう美容師にそっくりだし,ジュールの元恋人で大学教授のイーサンのどうしようもない恋人ぶりに辟易させられたり,次第に読者をストーリーに引き込む作者の腕は,なるほどとうなずかせられる。
 最後に伯父サディアスがジュールを思う良き人になってしまうところがなんとも情けないが,ハッピーエンドにするためには,仕方がないのかもしれない。
179 2005/08/02 ダイアナ・パーマー Diana Palmer 「あなたにすべてを Soldier Of Fortune 1985 宇井圭子/訳」
ハーレクインプレゼンツ作家シリーズ別冊 PB-23(05.05/\980/470p) L-764(97.07/\641/156p) P-141(01.04/\683/156p)
 ダイアナ・パーマーの「孤独な兵士」シリーズ第1〜第3巻を1冊に納めた別冊。うち第1巻を読了。
 ストーリーの中心は元傭兵で現在刑事弁護士のJ・D・(ジェイコブ・デイン)ブレットマンと秘書兼弁護士補助員のガビー・ダーウィンのロマンスを中心に,この後のストーリーに登場する傭兵たちが登場するシリーズ開幕の1巻。
 J・Dはシカゴで「ブレットマン・アンド・ダイス法律事務所」の刑事弁護士。オリーブ色の顔,ウェーブのかかった髪,瞳は黒でムスクのコロンの香りのするたくましい男,36歳。一方ヒロインのガビーはグリーンの瞳でダークブラウンの髪23歳だが,18歳からこの法律事務所で秘書を務める傍ら弁護士補助員として欠かせない存在になっている。そんなおり,イタリアに嫁いだJ・Dの妹マルティナが誘拐されたという知らせがマルティナの夫で海運業を営むロベルトから入る。赤毛の法律事務所の共同経営者リチャード・ダイスに係争中の事件を引き継ぎ,J・Dはガビーを連れて,グアテマラに飛ぶ。そこにはかつてJ・Dの傭兵時代の仲間,ファースト・シャツ,ダッチ,ディエゴ・ラレモス,ドラゴ,セムソン,アポロなどのコードネームで呼ばれる男たちがラレモスの農場に集まり,マルティナの救出を自分たちでやろうとしていた。ここではJ・Dはアーチャーというコードネームで呼ばれる。
 ファースト・シャツ(本名はマシュー)はかつて特殊部隊でJ・Dの世話をし,以後父親のようにかわいがってきた50歳代のブロンドで小柄なやせ形の男性で,終始J・Dのよき理解者であり,ガビーとJ・Dが結婚に踏み切れるように折に触れ支援する。ディエゴ・ラレモスは独身の女性好きな男で,J・Dは最終的には信頼しておらず,ガビーに注意するように言う。アポロは黒人の元憲兵で物資調達のプロ,ドラゴはやはり黒人で爆弾の専門家であるなど,出自が語られるが,これらの登場人物は後々ヒーローとしてシリーズに登場してくるのだろう。
 さて,J・Dとガビーは,ボスと秘書,命がけの仕事を好む傭兵と結婚と落ち着いた家庭を夢見る若き女性という対立を克服し,ロマンスを完成させるのだろうか。その二人の心の動きが克明に述べられ,終末でメソジストの教会での結婚式の場面では思わずほろりとさせられてしまう。 
178 2005/07/31 ダイアナ・パーマー Diana Palmer 「なんてミステリアス! Mystery Man 1997 新月あかり/訳」
ハーレクイン・プレゼンツ・作家シリーズ P-254(05.06/\683/156p) 孤独な兵士4
 ダイアナ・パーマーの「孤独な兵士」シリーズ第4巻。
 ヒロインのジャニーン(ダイアン・ウッディ)は24歳の売れっ子のSF作家で元私立探偵。両親はそろって考古学者で,年の離れた弟カートと休暇でメキシコのカンクンに2ヶ月滞在している。隣家のカンテン・ロークはソフトウェア開発者でその娘カーリーは野球ファンの活発な女の子。
 カートとカーリーが仲良くなったことにより,ジャニーンとカンテンは知り合うことになる。ジャニーンはとっさに自分の職業を隠したが,カンテンが彼女の著書を全て読んでいることを娘のカーリーから聞いてちょっと罪悪感をもつ。二人の子供たちが実にユニークで,爽やか。カンテンは別れた妻マリーが自分の金をあてにして結婚したことから結婚には自信がない。
 ローク家をねらっている怪しい男をたびたび目にしているジャニーンは,ある夜鈍く光るものを目にして果敢に飛びかかるが逆に頭を殴られ,誘拐されてしまう。しかし,船から突き落とされたところをカンテンに救われる。また両親が遺跡で発見した発掘物をめぐって,盗掘団とのカーチェイスなど,はらはらどきどきの物語の中に,互いを思いやるジャニーンとカンテンの心の動きが爽やかで,ほのぼのとした読後感。
177 2005/07/27 キャシー・リンツ Cathie Linz 「恋はマリンブルー Her Millionaire Marine 2004 山田信子/訳」
シルエット・ロマンス L-1146(05.07/\641/160p)
 親の代からの根っからの海兵隊員ストライカー・コズロウスキーは司令部に呼ばれ,突然お悔やみを言われる。母方の祖父でテキサスの石油王,ハンク・キングが亡くなったのだ。しかも祖父の遺言を伝えに来た女性弁護士に,ストライカーは所詮金持ちの娘だという思いと,何となく惹かれる思いの両方を感じてしまう。訪れた女性弁護士ケイト・ブラッドリーの方は,実は少女の頃,ストライカーに密かな思いを寄せていた。
 祖父ハンクは奇妙な遺言を残していた。2ヶ月間ストライカーが会社の経営に当たることが必要であり,そうしなければ,会社を潰してしまい,多くの従業員は路頭に迷うとともに,テキサス全体の経済にも大きな打撃を与えることになるというのだ。海兵隊の特命で2ヶ月間予備役につくことで会社を訪れたストライカーは,会社経営の面白さに気づき始める。そして,ケイトとの間にも他の女性とは異なった感情を抱くようになる。
 ストライカーの両親,ケイトの両親,会社の秘書テックス,執事のトニーなど,しっかりと脇役を固めていることと,テキサス流の格言など,ユーモラスな筆致がさえる。
176 2005/07/24 デボラ・シモンズ Deborah Simmons 「侯爵は恋泥棒 The Gentleman Thief 2000 古沢絵里/訳」
ハーレクイン・ヒストリカル HS-223(05.07/\903/284p)
 リージェンシー時代の保養地バース。紳士階級の娘ジョージアナ(ジョージー)・ベルウェザーは愛らしい顔と豊かなプロポーションの美女だが,自分の容姿よりも頭の良さをほめて欲しいと思っている。両親や二人の妹,弟はそんなことにはちっともお構いなし。
 この愛すべき素人探偵気取りのお嬢様が保養地バースで起こった首飾り盗難事件に果敢に挑む中,次々とエネルギッシュな活躍で事件に直接関係のない疑わしき男たちの秘密を偶然暴いていく。そして最後にたどり着いたのは謎の解決だけではなく,人類最大の謎,「愛」への解決であったという「お話し」。デボラ・シモンズの鋭い人間観察と描写が生きている珠玉の1作。
 さて,相手役は兄の死によって図らずも侯爵になったアシュダウン侯爵。侯爵には,前歴があり,直感によりそれに気付いたのは,ジョージアナだった。しかし,侯爵のに惹かれるものを感じたジョージアナは侯爵への疑いを最後まで信じたくない。そして,侯爵を助手として手足のように使い,常に頭の中では謎解きをしながらも体の方は侯爵に惹かれていく。このギャップが微笑ましくもコミカルで,この作品を軽妙なものにしている。
 得難いキャラクターのジョージーはバースに来る前にロンドンでいくつかの事件を解決してきたという記述があることから,シリーズものとしても成功間違いなし!
175 2005/07/20 ヴィッキー・ルイス・トンプソン Vicki Lewis Thompson 「情熱に焦がれて After Hours 2003 竹原 麗/訳」
ハーレクイン・ブレイズ BZ-28/05.07/\725/220p
 アリゾナ州フェニックス,そしてセドナ山。パートナー前の女性弁護士と電話会社社長(二人が初めて出会うときは電話工事人)。オフィスでのロマンスとアリゾナの雄大な自然を背景にしたロマンス。と,舞台設定の対比を見ただけで,ストーリーが思い描けるぐらいブレイジングな1作。邦訳の表紙と原語版の表紙を比較すると,原語版の方がはるかにいい。特に顔の見えないヒロインのブロンドの髪とゴムで留めているスタイルが文中の表現にマッチしているし,デスクの上に腰を下ろしている様子が十分に表現されている。通常原語版をそのまま表紙に使うこともあり得るのに,なぜ変えてしまったのだろう。あまりに内容が透けて見えるように思えたのかもしれないが,この辺の邦訳版の編集者の意図を聞いてみたいものである。
 かつては「重箱の隅の老人」という表現があり,邦訳上のさまざまな不手際をあげつらうこともあったが,少なくともHQでは出てくる単語が想像がつかないため,最近では「重箱の隅」を指摘しずらくなっている。しかし表紙について言えば,比較できるため今後もその指摘はできるように思う。
 さて,ヒロインはアイリーン・コネリー。トレイナー・アンド・サイズモア法律事務所の弁護士。同僚で恋人のベンジャミン・ホッブスとは,周囲の友人たちは間もなく二人は結婚するものと思っているし,アイリーン自身もその日は間もないだろうと考えている。と同時に,安定感のある結婚に対して,ファンタジー,冒険をしてみたいという気持ちも強くもっているアイリーン。たまたま数日間の外国出張でベンジャミンが出かけることになり,アイリーンは冒険をするならこれが最後の機会と思っていた矢先,事務所の電話修理にやってきたシェーン・ニコルズに出会う。マーキュリー・コミュニケーションズという電話会社を経営するシェーンは8年間自分の会社を大きくするために働きずめの生活を送ってきた33才の独身男性。シェーンはアイリーンを見た瞬間に惹かれ,声をかけられたことに驚愕する。そして,オフィスでファンタジーを経験し,これまで会社にのみ全生活を傾けてきたことに今更ながらに気付かされることになる。そんな生活に折り合いを付けて,アイリーンとの生活を新たに始められるのか? アイリーンの方もベンジャミン都であれば結婚し,安定した生活を気付けるだろうとは頭では考えられるものの,愛のない生活に今後耐えていけるだろうか。
 読者としては早くアイリーンとシェーンが愛情豊かな生活に踏み込めないものだろうかとやきもきすることになる。まさに,ロマンス小説の中でしか味わえない,現実にはほとんど起こりえない夢を,二人が替わって経験してくれるという醍醐味を味わえる傑作。
174 2005/07/17 クリスティ・ゴールド Kristi Gold 「孤独な御曹子 Unmasking the Maverick Prince 2004 星 真由美/訳」
シルエット・ディザイア D-1090/05.07/\641/156p(独身貴族の賭2)
 「独身貴族の賭」第2弾。アメリカで大牧場を営むミッチ(ミッチェル・エドワード・ワーナー3世)とオクラホマ州の小さな田舎町クウェイル・ランに帰ってきた雑誌記者のトリ(ヴィクトリア・メイ・バーネット)とのロマンス。
 トリは親友のステラとボビーの結婚式でメイド・オヴ・オーナー(花嫁付添人長)を勤めるため帰郷していた。夫ボビーのベストマン(花婿付添人)はボビーの勤める牧場のボス,ミッチだった。ミッチは地域の名門一族ワーナー家の御曹子で,父は政治家。最近父親が政界を退くのではという報道がささやかれ,後任に息子のミッチがつくものと考えられていることから,トリはミッチにインタヴューすることができればと思っていた。結婚式の前夜,「サンドラーズ・バー&グリル」で食事をしていたステラとトリ,ボビーの元を訪れたミッチは,トリとダンスフロアで踊る機会を得,そのまま外のピックアップトラックの荷台で愛を交わしてしまう。そして,結婚しない御曹子として有名なミッチは,すっかりトリに魅了されてしまう。
 父親から見捨てられたと思っているミッチは結婚に対しては絶望的な感情を抱いている。また,父親が誰かわからないトリも,父親に対する屈折した感情を抱いており,似たもの同士だが,どちらも結婚には踏み切れない。二人の間は少しずつ進展していくのだが,「愛してる」の一言をどちらも言い出せないでいる。親に対するトラウマから結婚に踏み切れないでいる若者がアメリカにはかくも多くいるのだろう。離婚した両親の姿から子供の世代でも離婚経験者が多くなるという社会的な問題をアメリカは抱えているのだろうか。
 二人の愛を優しく,或いは強烈に後押しするのは,トリの親友ステラとボビー。そしてミッチの祖父バック。特にバックのキャラクターは西部のカウボーイの典型といって良いだろう。世の中にはそれほど複雑なことはない,ということを地でいく元気なおじいさん。
 トリがミッチのインタビューを終え,ダラスに帰ってしまうときには,トリは妊娠していることを確認したがミッチには言わないでいる。そして母親と同じくシングルマザーになることを恐れてはいない。かつて自分は田舎町で父親が誰かわからない子供と言うことで周囲からいろいろ言われた経験を持つものの,大都市ダラスではそれを気にする人はいないということだろう。そして,雑誌記事の仕上げとして,編集長がトリに与えた課題はミッチの父親へのインタビュー。直接会っては言えないが,雑誌の中では自分が政界を退く理由と,自分が如何に息子を愛しているかを告げられるというのも,アメリカらしさなのだろう。
 やがて,家族の愛を取り戻そうとするトリは,父親の名前が書かれた母親からの手紙を開封する気になる。そして記事を読んだミッチは結婚し,子供のいる家族を作ろうとする決意を固めることができる。
 さて,3人の独身貴族の賭けの2番目の対象の名馬はどのように生かされるのか。
173 2005/07/16 クリスティン・リマー Christine Rimmer 「宿命の出会い The Marriage Medallion 2003 中野 恵/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-1068/05.07/\704/220p(バイキングの花嫁3)
 ミニシリーズ「バイキングの花嫁たち」の最終巻。3女のブリットは,父の国グランドリアに自らの意志で残り,兄の死の原因を探ろうとして飛行機事故で怪我をする。そんな彼女を救ったのは,神秘派と呼ばれる古くからのしきたりを重んじる世捨て人たちの村での生活を好むエリック・グレイフェルだった。海で死んだとされる兄グレイフェルは,本当に死んだのか? 「黒の襲撃者」と呼ばれる伝説の人物はグレイフェルではないのか? 謎を探るため女戦士クヴィナ・ソルダールを訪ねるブリットとエリックは族長のラグニルドから思いをかけない予言を告げられる。
 あたかも,ヒストリカルの世界に迷い込んだかのようなストーリー展開が中心となり,伝説とバイキングの生活が活写される。ラストの解決部分では,再び現代の世界に戻り,チャンチャンバラバラの活劇が楽しめる。
 しかし,シリーズ最終巻としては大団円が尻切れトンボになってしまい,ヒロイン・ヒーロー二人の愛の行方はどうなるのか,グランドリアの王位は誰の手に,など,後日談をもう1巻書いて欲しいような展開になってしまっている。
172 2005/07/11 クリスティン・リマー Christine Rimmer 「月下のあやまち Prince and Future_Dad? 2003 竹内 喜/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-1064/05.06/\704/220p(バイキングの花嫁2)
 ミニシリーズ「バイキングの花嫁たち」の第2弾。前作では次女のエリがハウクとのロマンスを完成させたところだったが,本作では長女リヴがヒロイン。三姉妹の中では最も上昇志向が強く,大統領は無理でも上院議員になるために大学院で勉強しながら法律事務所で実習をしている。そんなリヴだが,妹エリの結婚式でグランドリアを訪れている間に,最大の夏のお祭りでエールをしこたま呑み,訳がわからなくなっている間にセクシーなプリンス,フィン・デーンローと関係を持ってしまう。しかも妊娠までしてしまう。
 自分の夢をかなえるためにはアメリカに戻り研修を終えなくてはならない。そのためにはロマンスを切り捨てなければならない。しかし,結婚外で生まれた子供がどれほどひどい扱いを受けるかはグランドリアでは常識ではあるものの,アメリカで育ったリヴには納得できないことだった。生まれてくる子供が庶子にならないためにリヴに結婚を迫るフィンだったが,リヴの父,グランドリア国王からも,無理にでも結婚し,その後嫌であれば離婚しても良いから,誘拐してでもリヴをグランドリアに連れてくるように命じられる。
 リヴへの説得に失敗し,リヴの妊娠を確認したフィンは,帰国後牢獄に投獄される。その知らせを聞き,グランドリアに戻ったリヴはフィンのその様子を見て結婚を承諾するが,逆にフィンの方がそれを断る。そんな兄の様子からリヴに恨みを抱くフィンの妹イーヴリン。そしてイーヴリンに思いを寄せる少年によってイヴは連れ去られ,洞窟に閉じこめられる。連れ去られたイヴとお腹の子供は果たして無事だろうか。互いの愛を確認し合うのは二人が洞窟で出会ったときだった。物語はもちろん大団円を迎えるが,三姉妹の末娘,ブリットの企みがほのめかされて物語を締めくくる。
 表紙のリヴは美形ではあるがちょっと小生意気な小鼻で落ち着いた女性らしい顔のモデルを使っており,高慢な女性の典型のような姿勢で描かれている。良く描かれていると言っていいのだろうが,年齢的には物語の表現よりかなり上のように思える。また,邦題の「月下の・・」は名訳。
171 2005/07/10 クリスティ・ゴールド Kristi Gold 「王様はプレイボーイ Persuading the Playboy King 2004 秋元美由起/訳」
シルエット・ディザイア D-1086/05.06/\641/156p(独身貴族の賭1)
 国王,名家の御曹子,シークの3人の独身貴族が10年間独身でいることを誓い合い,約束を守れないときは自分の最も大切にしているものを賭の対象にするという設定。第1弾は,ドリアナ国国王マルクがヒーロー。賭の対象は名車コルベット。
 ヒロインはレジデンスの医師でドリアナ国の募集に応じてやってきたケイト・ミルナーだが,大学時代にマルクと出会っており,密かに思いを寄せていた。ケイトはマルクに医師採用の面接で出会い,即決で採用が決まる。
 そんな時,王宮の宮殿前に青い目をしてブロンドのかわいい女の赤ちゃんが置き去りにされていた。父親はマルクであるという手紙と一緒に。医師であるケイトが,血液型を調べることになる。マルクには全く心当たりがない。では女の子はマルクの兄,フィリップの子供だろうか。数日後,血液型はドリアナ王家デロリア一族の特徴ある血液型と一致していた。
 敵役には病院の医師で性格の悪いドクター・ルノーがおり,全編を通じて悪を背負った男として描かれる。これほどの性悪でやくざな男を医師として雇わなければならないほど,ドリアナには人材がなかったのだろうか。ヨーロッパの小国とはいえ,王国の募集に応じてやってくる医師であれば,もっと人物,医師としての技術に優れた人物を雇えたはずだと思うのだが・・・。
 結局,友人との賭から9年後にマルクはケイトと結婚することになり,エピローグでは置き去りにされた少女セシルとケイト自身のおめでたが描かれており,ハッピーエンドに終わっている。それにしても,赤ん坊を扱ったことのない国王マルクが,セシルの世話を焼くシーンや食べ物,飲み物を介した二人の濡れ場に思わず笑みをせざるを得ないしゃれた小品になっている。
170 2005/07/07 ジェニファー・グリーン Jennifer Greene 「偽りの愛はいらない The Baby Chase 1997 葉山 笹/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-968(03.06/\704/220p)
 「富豪一族の肖像」第12弾。
 シリーズ最終巻。モニカ・マローン殺害事件の真犯人は誰か。ジェイク・フォーチュンは本当に無実なのか。最終巻はその謎を追いかけるために,ジェイクの妹でミステリ作家のレベッカとケイトに雇われた探偵ゲイブ・デブローをヒロイン/ヒーローに選んでいる。
 前巻で姿を現したケイトは本巻では初めからゲイブと連絡を取れる相手として描かれている。そして,これまで影のような形で姿を見せ隠れしていたタミー・ディラーことトレイシー・デュセットとそのボーイフレンド,ウェイン・ポッツ。ウェインがレベッカを襲うシーンは迫力があり,ロマンス小説としては異色な感じがする。
 兄ジェイクの無実を信じ,それを証明するために治安の良くない地域にでも怖れ知らずに突っ走ってしまうレベッカの無邪気な行動には思わす笑みがこぼれてしまうし,レベッカの無事を祈り,危険には細心の注意を払おうとするゲイブの言動は,読者の心を和ませ,或いは感動させる純粋さをもっていて,ロマンス小説らしさが十分に感じられる。
 12章,13章の大団円は相反する性格の二人の心の触れあいがユーモラスで美しく描かれ,読み応えがある。全十二巻を通じて家族の強い結びつき,富豪の一族でも庶民と同じように苦しみと歓び,愛があることが描かれたシリーズである。
169 2005/07/05 マリー・フェラレーラ Marie Ferrarella 「残酷なレッスン Forgotten Honeymoon 1997 新号友子/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-964(03.05/\704/220p)
 「富豪一族の肖像」第11弾。
 シリーズも終末に近づき,モニカ・マローン殺害事件を始め,フォーチュン家を襲ういろいろな事件の謎も少しずつ解明されてきている。そろそろケイトも正体を現さないと,と思っていたら案の定。でもどんなかたちで姿を現すのか。堂々と正面きってというのが,やはりケイトにふさわしい出方だろう。
 本作のヒロインはクリスティーナ。ナサニエルの現在の妻バーバラの娘でフォーチュン・コスメティック社の広告担当。ケイトの遺産でもらったのは南カリフォルニアの田舎町にあるホテルの共同所有権。共同所有者はマックス・クーパー。自ら建設会社を興し,ホテルの経営は受付のジューンや従業員に任せ,のんびりした経営をしていた。そこに乗り込んできたのがクリスティーナ。実質の経営権を乗っ取られる危機感をもったマックスと従業員たちは,クリスティーナに反感を抱く。翌朝広間の壁掛けをはずそうとしてはしごに乗っていたクリスティーナは誤ってはしごから落ちてしまい暖炉に頭を打ってしまう。そして,「記憶」を失ってしまうのだ。
 ここからは,いわゆる記憶喪失ものだが,読者にはすでにヒロインが誰かはわかっており,いつ記憶が戻るのかが焦点になりそうなものだが,著者はひとひねり加え,マックス始め従業員がクリスティーナに別の人格を与え,自分たちのいうとおりにしようとするという要素を加えた。
 金持ちの令嬢といういやらしさをぷんぷんさせていたクリスティーナが,記憶を無くしたことにより素直で愛らしい娘に変身し,従業員たちのみならず,マックスの心の中にいつの間にか入り込んでしまうというプロットは実に意外性があり,見事。互いに相手を必要とし,愛を持ち始める部分は必然的に読者をうなずかせる。最大の関心事はクリスティーナが記憶を取り戻したときどのように変化するかだが,この解決策はどうも不十分で納得できない。
 さて,大団円で,ケイトはいかに皆の前に姿を現すのか。そして最終巻となる第12弾のヒロインは誰か。読者の関心に十分に答えてくれる結末である。
168 2005/07/03 ジャスティン・デイビス Justine Davis 「二度目の恋は熱く The Wrangler's Bride 1997 桐島夏子/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-960(03.04/\704/220p)
 「富豪一族の肖像」第10弾。
 物語の舞台は久しぶりに牧場に戻る。第2弾に登場したグラント・マクルアとその幼なじみで現在警官になっているメレディス・セシリア・ブレイディ(マーシー)のロマンス。マーシーはフォーチュン家のクリスティーナの親友。
 厳しい自然の中に生きる人々と都会であるミネアポリスに生きる人々,その風土の違いが主題になっている。
 本作ではケイトとスターリングも巻末でちょっと顔を出すだけであり,全体としては番外編の雰囲気が強い。
 また本作では人々だけではなく,種馬のジョーカーや犬のギャンブラーなど,動物たちが重要な役割を果たすが,深い愛情と温かい触れあいが全編を覆っており,癒しの一冊となっている。
167 2005/06/30 スザンナ・キャレイ Suzanne Carey 「ドクターに片思い Mystery Heiress 1997 水山 春/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-956(03.03/\704/220p)
 「富豪一族の肖像」第9弾。
 イギリスでかつてベンジャミンがケイトに出会う前に産ませた子供ジェシカ・ホームズは白血病の娘アニーのドナーを探すため,フォーチュン家を頼ってアメリカに渡ってくる。動物園で出会ったドクター,スティーブン・ハンターは自らの手を尽くした息子のデイヴィッドの死が原因で妻と別れ,家族を失っていた。そんな二人は出会った瞬間から互いを意識するようになる。アニーの主治医となったスティーブンはフォーチュン家のリンゼイ(ジェイクの娘)と同僚だったことからフォーチュン家の面々がドナーの適合検査を受けることになる。果たして適合者はいるのか?このミステリーが一つ。
 前作でモニカ・マローン殺害の疑いをもたれたジェイクは,果たして本当に無実なのか。そしてベンジャミンの実子ではないと脅され,酒におぼれるようになったジェイクは復活できるのか。そして,ジェイクは妻と家族を再び取り戻せるのか。このミステリーが一つ。このふたつのミステリーが並行して語られる。
 これまではフォーチュン家を見守る役回りだったケイトは,かなり積極的に変装しながらもいろいろな場面に登場し,リンゼイに危うく発見されそうになる。ケイト自身も早く家族の前に姿を現そうかといらいらし始め,弁護士スターリング・フォスターをハラハラさせる。この二人の関係もどうなっていくのかが思わせぶりに少しずつ語られていく。スザンナ・キャレイのストーリーテリングぶりが遺憾なく発揮された快作。
166 2005/06/27 クリスティン・リマー Christine Rimmer 「誘惑しないで Wife Wanted 1997 藤田由美/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-952(03.02/\704/220p)
 「富豪一族の肖像」第8弾。
 前作のタイムトラベルロマンスとは異なり,こちらは大変まともなロマンス小説。リマーは最近では悩める三兄弟やバイキングの花嫁たちでおなじみのシリーズ作家であり巧みなストーリーテリングというイメージだが,この作品では結構ダラダラとヒロインの心情の吐露で終わっているような気がして,ちょっと期待はずれだった。
 フォーチュン家のジェイクがなぜモニカ・マローンに株券を譲ったのかは第6弾でほのめかされているが,いよいよ,ジェイクとモニカが対決するものの,逆にジェイクが苦境に立たされることになる。本作ではジェイクの娘の一人,気だての優しいナタリーがヒロイン。小学校教師をしているナタリーだが,祖母ケイトに昔ケイトとベンが住んでいた家を譲られる(いったい何件家を持っているんだ!)。夏休みに旅行しようとするものの,家付き犬の世話をすることが遺言の一つになっていたため,短期間家の世話と犬の世話をしてくれる借家人を捜していた。そこに飛び込んできたのが,母親を事故で失って失語症になってしまったトビーという少年を抱えたリック・ドルトン。リックは大音響で歌を詠っている飾らないナタリーの姿に一目惚れ,ナタリーもトビーがすっかり入り,トビーにも気に入られる。しかし,短期間の滞在であることからナタリーはかつて男性に裏切られた経験からリックに心を許すことはするまいと思っているため,二人の仲はなかなか進行しない。なぜ人々はこんなに頑固に自分の殻に閉じこもるのだろうか。その葛藤が解けたときカタルシスを感じるのがロマンス小説の醍醐味なのだろうが,なかなか自分に気に入る解決方法に出会うことは少ない。そこが並のロマンス小説と優れたロマンス小説の差なのだろう。サンドラ・ブラウンやノーラ・ロバーツ,リンダ・ハワードなどはそこがすごいところなので,圧倒的な人気を誇っているのだろう。
 フォーチュン家の物語もいよいよ佳境を迎えつつある。ケイトの残したフォーチュン・コスメティック社はどうなるのだろうか。ケイトはいつみんなの前に姿を現すのだろうか。行方不明になっているフォーチュン家の面々はいつみんなの前に姿を現すのだろうか。どのような大団円を迎えるのか。シリーズもあと4巻。次作ではイギリスからやってくるジェシカ・ホームズがヒロイン。
165 2005/06/26 トーリ・キャリントン Tori Carrington 「真夜中のドクター Night Fever 2003 東みなみ/訳」
ハーレクイン・ブレイズ BZ-25(05.06/\725/220p) Tori Carrington.com
 「富豪一族の肖像」シリーズをちょっとお休みして,ブレイズに手を出した。シリーズものは安心して読んでいけるが,全12巻というのはやはり通読するにはちょっと思い感じがしていたところだったので,つまみ食いという感じだろうか。
 トーリ・キャリントンは,トニーとローリの夫妻で共有しているペンネーム。テンプテーション,ブレイズで活躍している。どんな風に執筆を進めているのか,どんな役割分担をしているのかなど,特にジャンルの上からも興味を引く。私生活と仕事の両方を夫婦でやるというのは,それなりに難しさもあるだろう。藤田・小池夫妻はそれぞれ執筆は別にしているので,それぞれ独立した作家が同居しているという感じだろうが,夫妻で一つの作品にしていくのは,想像しただけでもむずかしそうだ。
 ともあれ,この作品は成功していると思う。不幸な出自,複雑な親子関係,兄妹,独特なキャラクターのかき分け,などなど,いわゆるただのブレイズではない読み応えのある作品に仕上がっている。キスの迷宮シリーズは全三巻。今回のヒロインは医者のレイラ。他にプロデューサーのマロリー,パン屋のライリーの二人の女性,そしてコラムニストのジャックと親友4人組を描いていくのだろうと思われる。
 もう一つ,シリーズの舞台になっているのが,ハリウッド。いわゆる映画界を中心として何でもありの街。そしてここでは不幸な少女時代を過ごしたヒロイン,レイラの姿をとおしてその暗部をも映し出しているが,決して否定的に描くのではなく,レイラの母親トルーディの姿をとおしてそこで生きていくための力強い生命力を描いている点がすばらしい。
2005/08/21再読
 シリーズ 「キスの迷宮」 "Kiss and Tell" 第2弾「甘い関係 Flavor of the Month 2003 若宮桃子/訳」を読む前に再読した。ヒロイン,レイラとヒーロー,サムの二人の関係は,医者同士ということでセレブの関係のように思われがちだが,二人とも仕事に多くの時間を費やしているためか,それぞれの住まいはセレブらしさがない。さすがにレイラの方は女性らしさがあらわれ,"ウィルシャーにあるレイラのアールデコ調のアパートメントは,狭いものの居心地がよかった。”とされているが,サムの家には妹ヘザーが見立てたソファの上のピンクと赤のクッション,ワインのコルク抜きやワインクーラーの場所を探したりする姿などから生活感のなさが現れている。
 Tori Carrington.comには,笑顔で並ぶ二人のポートレイトが掲載されている。トニーとローリを合わせてトーリというペンネーム,そしてトニーの姓がカライアニであることから,ハワイ出身だろうかなどが連想される。また,別シリーズ "Sleeping with Secret"のブレイズのミニシリーズの表紙は大変美しい。
164 2005/06/23 マギー・シェイン 「百年前から愛してる A Husband in Time 1997 宇野千里/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-948(.03.01/\704/220p)
 「富豪一族の肖像」シリーズ第7弾。
 ロマンス小説には珍しいタイムトラベルもの。丁度百年前から男がやってくるが,それはその家のその部屋だけにある次元のゆがみを利用したタイムマシン(手で持てるちいさな機械でスイッチとダイヤルがついているだけのもの)を旅行するタイムトンネルを使った限定的なタイムトラベルでやってきた祖先だった。現代で待ち受けるのはフォーチュン家の次男ナサニエルの娘ジェーン。ジェーンはシングルマザーでケイトの遺産として譲られた古い家に一人息子のコディと一緒に移り住んだ。そこに大きく肖像画として飾られていたのが,フォーチュン家の祖先ザカリア・ボルトン。愛称ザックはこのタイムマシンを使ってウィルスに冒され明日をも知れぬ容態の一人息子ベンジャミンを救うために過去に戻ろうとしたところが百年後の現代についてしまう。
 アンティーク・ショップを営むジェーンは古いものに限りない愛情を感じているが,自分を古風だと思っている。しかし百年前から来たザックから見ると最も現代的な女性。こちらもやはり女性に裏切られ,もう二度と恋などすまいと考えていたが,ジェーンに一目惚れ,しかもその息子のコディは周囲から天才と呼ばれているIQの高い少年。コディは父親が欲しい,そしてザックの息子のベンは母親が欲しいと思っている。終末でザックがプロポーズするがその様子を階段の上に腰掛けてみていた二人の少年は”イエスと言って”と叫ぶ。かくも都合良く進むのが,ロマンス小説の王道。タイムマシンものというより,ヒストリカルな雰囲気が全体に漂う好著。 
163 2005/06/20 アーリーン・ジェイムズ Arlene James 「せつない誓い Single with Children 1996 新号友子/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-944(02.12/\704/220p)
 「富豪一族の肖像」シリーズ第6弾。
 ジェイクの息子アダムのロマンス。この兄弟姉妹にはキャロラインの下に妹ナタリーがいるようだ。さらに,フォーチュン一族にはかつて誘拐された子供がいることがほのめかされていたが,本巻の後半でこの行方不明だった”ニューオーリンズのトレイシー・デュセット”と”ウェイン・ポッツ”なる人物が登場するが,詳細は語られない。
 さて,アダムには亡くなった妻との間に長女ウェンディと双子の兄弟ロビーとライアンがいる。幼い3人の子供を養育する子守(ナニー)は姉弟のいたずらに手を焼き,なかなかアダム一家に定着しない。通いの家政婦兼コックのビバリーがいるが,子供たちの養育までは任されていない。何人もの雇い人を雇い入れるだけの経済的余裕がフォーチュン家にはあるが,元軍人のアダムは年金暮らしのはず。そもそもなぜ軍隊を退職したのか,それに年金だけで豪華な住宅と何人もの雇い人を得るだけの経済的余裕があるはずはなく,やはりフォーチュン家の遺産があることは確かだと思う。
 アダムと子供たちがレストランで食事をしているときに登場したのが,ウェイトレスとして雇われたばかりのローラ・ボーモント。しかし,意地悪なマネージャーに腹を立てたローラは子供にていねいに対処してくれたアダムの誘いを受け,レストランをやめ,アダム一家のナニーになることを承諾する。後で,このレストランに一家でやってきたとき,このマネージャーには見事に仕返しをすることになるのだが,子供たちに深い愛情を注いでくれるローラに感心したアダムは,妻/母を失った子供たちが次第に深い愛情に触れ,幸福感を感じ,子供たちばかりでなくアダム自身も亡き妻の思い出から立ち直ることができるようになっていく。
 しかし,ローラには一家に知られたくない秘密があり,そもそも元恋人で麻薬密売人のドイヤルから逃げ出してきたことをアダムに告げることはできないでいた。アダムの愛情やフォーチュン家の面々からの感謝の気持ちにとまどうローラだが,父親ジェイクと息子アダムの親子関係を修復し,互いの深い理解に気付かせたのはローラの一言だった。家族の対立と和解の物語でもある。
 一家の精神的支柱ケイトの暗躍?も健在で,所々で顔を出すケイトと弁護士スターリングのコンビもストーリー・テリングのような役割を十分に果たしている。
162 2005/06/19 リンダ・ターナー Linda Turner 「熱く危険な恋人 The Wolf and the Dove 1996 原 たまき/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-940(02.11/\704/220p)
 「富豪一族の肖像」シリーズ第5弾。
 そろそろ家族関係を整理してみないとわからなくなりそう。フォーチュン・コスメティック社の社主ケイトは,夫ベン(ベンジャミン)のあとを嗣いで社長をしていたが,第1巻で南米で飛行機事故で亡くなったことになっているが,実は生きており,ミネアポリスの家族の付近で弁護士スターリング・フォスターのもとに身を寄せ,家族を見守っている。長男のジェイクと次男ナサニエルはケイトの後を継いで,社長と副社長を務めているが,二人の間には確執があり,その理由としてジェイクはどうもベン=ケイト夫妻の実子ではないらしいことが本巻でほのめかされている。
 ジェイクには長男アダム,長女キャロライン,そして双子の女子アリソンとレイチェル(ロッキー)がいるが,キャロ,アリソンは前作までに結婚した。本巻では双子の妹レイチェル(ロッキー)のロマンスが語られる。頑固で活発な祖母ケイトの性格を受け継いだロッキーは遺産として軽飛行機2機とヘリコプターを相続したが,それを基にフォーチュン牧場のあるクリアスプリング近郊でフライト・サービス会社を興そうと土地を探している。
 ネイティヴ・アメリカンの血を引くルーク・グレイウルフが医師として開業しているのは,かつて飛行場だったところを安く譲り受けた場所だったが,飛行場は放置されていた。それに目を付けたロッキーはルークに飛行場を貸して欲しいと頼みに行くが,その時二人は互いに相手を意識する。
 原題の"Wolf"はルークの姓グレイウルフを指しているのだろう。また,"Dove"はハトの意。飛ぶことを職業とするロッキーを指しているものと思われる。管理されることを嫌い,自分で男顔負けにすべてのことをやろうとするロッキーと,本来の優しさから女性は守るべきものと考えているルークが,互いに惹かれ合いながらもなかなか妥協点を見付けられないもどかしさが,読者を引きつけ,最後の大団円に向かって一気に飛翔する感動の1作。
161 2005/06/16 バーバラ・ボズウェル Barbara Boswell 「御曹子のフィアンセ Stand-In Bride 1996 横田 緑/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-936(02.10/\670/220p)
 「富豪一族の肖像」シリーズ第4弾。
 家族をテーマにした小説が好きというバーバラ・ボズウェルらしく,フォーチュン家の面々がたくさん登場し,それぞれの確執や関係がたくさん描かれている,まるで「サザエさん」のような一冊。
 フォーチュン・コスメティックス社のマイケル・フォーチュンは商品開発部門の副部長を務めているが,副社長ナサニエルとその最初の妻(生存)シーラとの間に生まれたが,金持ち目当てに結婚した愛情薄い母シーラの影響により,結婚を望まず,女性はすべて金目当てで自分と付き合おうとすると思いこんでいる。「ケッコンシタイアメリカジンダンセイトップテン」にランクインされたことから,次々に電話やメールが寄せられ,社のメールシステムがダウンするなどの被害が続出する。それから逃れるため,マイケルの父と義妹(父の後妻の子)の画策により,偽りの婚約をすることになる。その相手として選ばれたのは秘書のジュリア・チャンドラー。普段は有能な秘書らしく地味で目立たない服装をしているが,交通事故で両親を失い,同乗していた妹のジョアンナは一命を取り留めたものの重い障害が残り,リハビリセンターでリハビリに励んでいる。その費用をまかなうためには,マイケルの申し出た5万ドルは非常に魅力的。もしその申し出を断れば,社を追い出されるかもしれないという想いから偽りの婚約を承諾する。ここまではロマンス小説らしい展開。
 二人は次第に惹かれ合い,マイケルも愛に目覚めていく。
 脇役であるジュリアのルームメイト,キアやマイケルの従姉妹ロッキー,義妹のクリスティーナなどが生き生きと描かれ,実母のシーラも登場する。フォーチュン・コスメティックス社の社長ジェイクと副社長ナサニエルの確執や,ジェイクと妻のエリカの別居など,大家族のそれぞれの関係が描かれる。そして,二人の行く末を陰から見守る祖母ケイトと弁護士のスターリングなど,人間関係が巧に描かれ,付箋紙の貼りどおしの一冊。
 終末で登場するモニカ・マローンの株の買い占めが次巻への伏線を思わせ,ヒーロー・ヒロインのハッピーエンドで締めくくられる。
160 2005/06/13 マリーン・ラブレース 「危険な逃避行 Beauty and the Bodyguard 1996 井野上悦子/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-932(02.09/\670/220p)
 「富豪一族の肖像」シリーズ第3弾。
 キャロラインの美貌の妹アリソンに父ジェイクがボディガードを24時間付ける。アリソンには双子の妹レイチェル(ロッキー)がいるが,こちらはヘリコプターの操縦士。マリーン・ラブレースは空軍士官だったことからロッキーをヒロインにした方が良いものが書けたのかもしれないが,あえてモデルの世界に挑戦している。男からも女からもその魅力が人を惹き付けるアリソン。まるで夏の夜の蛾のように男が寄ってくるが,アリソンは気にしない。フォーチュン・コスメティックス社のCMモデルを務める。カメラマンは天才と呼ばれるドミニク・アヴェンデス。スタイリストのゾラなどユニークなキャラクターを控えて,ストーリーは冒険と危険に巻き込まれるヒロインを浮き立たせる。その警護に当たるレイフ・ストーン(ラファエル・アレキサンダー・ストーン)がヒーロー。かつての職務のとき負った傷を頬から首へ,そして背中にもつ本物のボディガード。いわゆる美女と野獣の組み合わせだが,アリソンの外見ではなく内面の美しさに気付くレイフと,レイフの傷から顔を背けずにその内面の繊細さや優しさに気付くアリソン。そんな理想的な出会いがあるだろうか。ある,ある。それがロマンス小説の王道。
 ジェイクの妻エリカやアリソンの従兄弟マイケルなどのキャラクターも語られ,シリーズは少しずつ全貌が見えてくる。
 また前妻フィオナに裏切られた想いがあるレイフがアリソンによって女性不信をぬぐい去れるのか,直前に男性との苦い思い出をもつアリソンはレイフに対する感情を整理できるのか。その二人が如何に互いの気持ちを打ち明けていくかがよみどころ。
159 2005/06/11 リサ・ジャクソン Lisa Jackson 「プレイボーイの純愛 The Millionaire and Cowgirl 1996 村上あずさ/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-928(02.08/\670/220p)
 「富豪一族の肖像」シリーズ第2弾。
 ”わたしはシングルマザーだ。娘の父親は金持ちのプレイボーイで,別の女性と結婚するために何年も前に私を捨てた。p164”
 フォーチュン家のカイルはワイオミング州クリアスプリングスにあるフォーチュン牧場を祖母のケイトの遺言で譲られることになる。しかし条件が付いていた。六ヶ月間はこの牧場に住むこと。今は六月,つまりはクリスマスまでは牧場を売ることはできないわけだ。
 牧童頭の娘サマンサは一人娘のケイトリンを育てながらアル中の父の代わりに牧場の馬たちの調教は一手に引き受けていた。カイルが牧場に来た事情を知り,サマンサは動揺する。実は10年前の夏,牧場に来ていたカイルとサマンサは一夜をともにし,その結果生まれたのがケイトリンだったが,カイルはその事実を知らない。サマンサはケイトリンにもそのことを知らせていなかったが,ふとしたことからカイルとケイトリンは出会ってしまい,何度か出会ううちにカイルはケイトリンが自分の娘ではないかと気付いてしまう。
 シティのプレイボーイであるカイルが牧場に残るはずはないと思うサマンサはカイルに体を許してもプロポーズは受け入れようとしない。そして,カイルがミネアポリスに家族会議で帰っているとき,ケイトリンは馬から落ちて大けがを負ってしまう。数日間牧場から離れたカイルは牧場こそ自分のいる場所だと気付くが,その時留守番電話にはいっていたケイトリンの怪我を知らせるサマンサの叫び声を聞く。
 あとは予想どおりの急展開。そして,ケイトの秘密が明かされる。ケイトが次ぎに心配しているのはキャロラインの美貌の妹アリソンのこと。
158 2005/06/07 レベッカ・ブランドワイン Rebecca Brandewyne 「雇われた夫 Hired Husband 1996 原 たまき/訳」
シルエット・スペシャル・エディション N-924(02.07/\670/220p)
 「富豪一族の肖像」シリーズ第1弾。フォーチュン家の出自であるワイオミング州とミネソタ州ミネアポリス。化粧品会社フォーチュン・コスメティック社のオーナーケイト・フォーチュンの孫娘キャロライン・フォーチュンは社の研究職で化学者のニック・ボルコフが移民局から強制退去の命令を受けたとき,もう少しで画期的な新製品を発明しようとしていた。社の広報担当副部長キャロラインと結婚すればアメリカの市民権が得られる。その企てはキャロラインの祖母ケイトと父親ジェイク・フォーチュンの望みでもあった。
 ポールという同僚から性的嫌がらせを受けたばかりのキャロラインは男性への不信感をぬぐえないままこの申し出を受けることになってしまう。「雇われた夫」としてのニックには惹かれるものがあるものの,結婚はあくまで便宜的なもの。ニックが私を愛しているわけはない。しかしキャロラインを気遣い,優しく接してくれるニックに,次第に惹かれる気持ちが増しつつも,男性への不信感,便宜的な結婚ということが支障になり,二人は同居しながらもなかなか心を通わせ合うことはできないでいる。どんな事件が二人を決定的に近づけるのか。興味をもたせつつ,物語は大団円を迎え,最後のジョークへとつながっていく。「これからも夫として雇ってもらえるのか?」「ええ,本採用よ」
157 2005/05/31 デブラ・ウェッブ Debra Webb 「甘く危険な遊戯 Personal Protector 2002 佐藤敏江/訳」
シルエット・ラブストリーム LS-241(2005.05.20)
 コルビー捜査ファイル第5弾。シカゴの私立探偵事務所コルビー探偵事務所のミニシリーズの第5弾。このシリーズを読むのは初めてなので,所長のビクトリアや事務所の探偵たちについては,本巻では少ししか登場しないため,詳細は不明。
 第5弾の本巻では,ヒロインは所長コルビーの旧友でFBI局員のルーカス・キャンプの姪でアトランタのマイナーテレビ局のキャスターパイパー・ライアン。SSUというテロ組織の実態を暴くための取材を続けるパイパーを守るため,事務所の調査員リック・マルティネスを派遣する。ネイビーブルーのポロシャツを着たパイパーは十代に見える濃いブルーの瞳の愛らしい顔をした赤毛の美女が表紙にはあるが,文中のパイパーのイメージとは若干異なる。ヒーローのマルティネスは女性なら誰でも振り向く整った顔立ちの男性。ラテン系の表紙の男性はまさに文中のヒーローとぴったり。
 いわゆるボディガードものであり,ヒロインに思いを寄せ,命がけで守ろうとするヒーローの活躍や最後のアクションシーンは見事。SSUの中心人物にあっと思わせる人物を配するなど,アクション・ロマンスとサスペンスが巧みに融合された好著になっている。
156 2005/05/28 エマ・ダーシー 「初恋は永遠に The Outback Marriage Ransom 2004 藤村華奈美/訳」
ハーレクイン・ロマンス R-2038(2005.05.20)
 エマ・ダーシーのミニシリーズ「旅立ちの大地」の第1作。犯罪を犯して,少年院に行くか羊牧場での労働をするかの二者択一を迫られた三人の少年の物語。
 三人の少年,リック(リカルド)・ドネイト,ミッチ・タイラー,ジョニー・エリスの3人は18年前,少年院に行くか羊牧場に行くかの選択を迫られ,パトリック・マグワイアの経営するガンダムラで半年の労働をすることになる。このときの経験が3人を大きく成長させ,18年後の今はそれぞれが成功を収め,社会的にも重要な地位についている。
 第1作はリックがヒーロー。リックが16歳の時ポルシェを盗んで捕まったのは,一つ年下の富豪の娘,ララ・シーモアをドライブに誘いたかったためだった。フォトジャーナリストとして活躍しているリックは,ある日ララが夫に暴力をふるわれている写真を偶然手に入れる。ララを救うことを決意したリックは友人のミッチ,ジョニーの助けを借り,ララをつれてガンダムラを訪れる。やっと夫から逃れ自由を手にしたララは安心して,リックとその夜をともにする。
 社会的地位や経済力に惹かれて結婚してしまったことを後悔していたララは18年前のリックの愛が本当のものだと感謝するが,リックに感謝こそすれ,リックが自分に注いでくれた気持ちに答えられなかったことに申し訳なさを感じ,本当の気持ちを素直に伝えられない。リックはララが注いでくれた愛情が本当の気持ちであるという確信を得られないままに,ガンダムラを後にしてしまう。
 数ヶ月が過ぎ,ララに変化が訪れる。そのことに悩んだララはリックに真実を告げられないまま,リックの下をさる決心をする。そんな時,ララの居所を突き止めた夫のゲイリーを乗せた軽飛行機がガンダムラでの着陸に失敗して,ゲイリーは亡くなってしまう。真に夫の手から逃れられたララだが,その時ララは身ごもっていた。果たしておなかの子供は夫の子供かリックの子供か,真実を突き止めるにはDNA鑑定を受けるしかない。しかしその結果を手にした二人は,手紙を開封しようとせず,互いの気持ちを確かめ合う。
 ハッピーエンドに終わることは予想されても,その場面は手に汗を握る。
 第2作ではミッチがヒーロー。
155 2005/05/27 リンダ・ハワード 「熱い闇 Mackenzie's Mission 1992 上村悦子/訳」
シルエット・ラブ・ストリーム LS-15(97.05),シルエット・スペシャル・セット(02.04)
 SHALOCKMEMO154で「マッケンジーの山」を読了後,さらにこのシリーズを読みたいと強く思い,再読している(02.06.19読了)。この「熱い闇」では,マッケンジー家の長男ジョーはすでに35歳で空軍の大佐に昇進しており,新しい空軍機「夜の翼」(ナイト・ウィングとは表記されていないが・・・)の開発プロジェクトの最高責任者となっている。ウルフとメアリーの間には3人の男の子と一人娘があり,ジョーが帰宅するとみんなが兄をしたって家が活気づく様子は,別作で語られる。
 新型機の開発プロジェクトの一員としてキャロラインが基地にやってくる。コンピュータとレーザー光線の専門家で小さい頃から優秀なため,次々に飛級して18歳で大学を修了。こういう天才の子供にありがちで,人とのつきあいが下手で,特に男性との恋愛体験は皆無。しかも運の悪いことに以前言い寄られて断った男性職員はすでにこのプロジェクトのメンバーになっている。プロジェクトも大詰めでテスト飛行を繰り返し,国会での予算獲得まであと一歩という時期なので,とにかくトラブルを起こさないように注意されるキャロラインだが,そのためにはチームのボスであるジョーと恋愛関係にあるふりをしようという提案をキャロラインは受け入れざるを得なくなる。しかし,仕方なくというよりも何かと突っかかっていきたくなるのはジョーに惹かれているからだということに,恋愛経験の少ないキャロラインはかえっていらだちを覚え,なおもジョーに突っかかっていく。
 これまで,空を飛ぶことが大好きで,空軍を選んだジョーだが,次第にキャロラインの存在を無視できなくなる。はじめはトラブルを避けるため近づいたのだが,ミイラ取りがミイラになるということで,終末の休日を二人きりでベガスのホテルで過ごす。この二日間の二人の関係描写は見事。二人の心理状況の変化を二人の行動で見事に読者に伝えている。
 その後事件が起こり,二人の心のすれ違いもあっさりさせ,やきもきさせるより,より関係が深まっていく方にストーリーが展開していくので,読者に安心感を持たせ,エピローグまで一気に読ませる。
154 2005/05/25 リンダ・ハワード 「マッケンジーの山 Mackenzie's Mountain 1989 高木晶子/訳」
MIRA文庫LH01-10(2005.05.15)
 リンダ・ハワードの名作「愛と勇気のマッケンジー家」がMIRA文庫に入った。すでに「誇り高きマッケンジー家」シルエット・シリーズ・スペシャル・セットで一読しているが,再読して良かったと思う。
 さすが,リンダ・ハワードというのを実感した。そのバランス感覚の良さである。ロマン度,サスペンス度,ハートフル度,ファミリア度といずれをとっても引き込まれ,そして満足できる仕上がりになっている。ヒロインのメアリーはうぶだが頑固。この性格がウルフとの子供たちの誰に受け継がれていくのか。シリーズものの楽しみをかき立てる第1作になっている。
153 2005/05/23 ノーラ・ロバーツ 「ミトラの三つの星2 真夜中の火花 Captive Star 1997 三好陽子/訳」
ハーレクイン・プレゼンツ作家シリーズ P-245(2005.02.20)
 ミトラの三つの星3部作の第2巻。SHALOCKMEMO119「ミトラの三つの星1 夢の断片」では記憶喪失になったベイリーとケイド・パリスが三つの石の内の”愛”の石を持っていたが,ベイリーが親友である二人に送った石の内”知”の石を送られたM・J・オーリアリと孤高のバウンティ・ハンター=ジャック・ダコタの冒頭から終末まで圧倒的なジェット・コースター・ロマンス。
 後半でもう一人の親友グレイス・フォンテーンの山荘を訪れるが,グレイスは不在だった。
 そして,M・Jは心を許した人にしか教えない”M・J”の意味をジャックに告げる。4代にも続くM・Jの職業,パブの経営。赤毛ですらりとした体型。プライドの強さと人に頼らないところは,アイルランド系の特徴を十分にあらわしている。作者のノーラともっともよく似たキャラクター。愛らしいベイリー,圧倒的美女のグレイスと比べ,精神的な支柱となるM・Jという3部作の構造がこの巻で見えてくる。
152
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2005/05/20 ジェシカ・スティール Jessica Steele 「恋人もいないのに(生涯に一度の愛を2) Bachelor in Need 2000 藤村華奈美/訳」
ハーレクイン・プレゼンツ・作家シリーズ P-251(05.05/\683/156p)/R-1695(01.07/\672/156p)(HQ)
 「生涯に一度の愛を」第2巻。第1巻の「危険な恋のドライブ」では,十分に理解できなかったヒロインたちの家族関係がややわかりやすく書かれている。第3巻ではもっと明確になるだろう。
 第2巻のヒロインはフェニア。父からの遺産を引き継ぎ,特に働く必要もないが,自分の母親と同じように男をひっかえとっかえする女になりたくないという想いから,父から言われた「仕事を持て」という言葉に従い,大卒で託児所勤務という仕事に就いている。あずかっていたルーシーの両親が迎えに来ず,伯父と称するイェーガー・アーカートに簡単には子供を引き渡すわけにはいかないという責任感から,イェーガーのマンションに一緒について行くことにする。ルーシーのトッド夫妻は事故に遭い,入院したという。託児所の経営者ケイト・ヤングに連絡を取るとルーシーの伯父というだけで,イェーガーの名前が出てきたことからフェニアはほっとするが,子供の面倒を見たことのない様子のイェーガーに不安を感じたからなのか,30代半ばと思われる長身でブロンドなハンサムな男性に惹かれるものがあったからなのか,ここでは語られない。
 次々と父親や恋人が変わる母親と同じようにはなりたくないというのが,このシリーズの3人のヒロイン,ヤンシー,フェニア,アストラだが,生涯をともにできる男性にいつ,どのように出会い,どのように愛の心を取り戻すのかがテーマだが,この巻のヒロイン,フェニアは,イェーガーから「愛しているよ」という言葉を聞くまでは,頑なに自分の心を閉ざしていく。その割にはイェーガーがマンションにつれてくる女性には嫉妬心と対抗意識をもち,プライドをもって接していく。この気持ちと行動に読者はやきもきさせられるのだが,巻末で語り合われる二人の「いつ,どのように」相手に対する気持ちに気付いたかというくだりも,156頁という中編のページ数のなかではかなりのウェイトを占めていると思う。
 3人目のヒロイン,アストラの相手は? どのようにヒーローと出会うのか,楽しみなシリーズ。
151 2005/05/16 ルーシー・ゴードン Lucy Gordon 「誘われた花嫁 Rinaldo's Inherited Bride」 
ハーレクイン・イマージュ I-1747(05.05.05)
 「魅惑の兄弟」2部作の1。イタリアで農場を営むファルネーゼ兄弟,兄のリナルドと弟ジーノ。二人の農場の一部は父親の借金のカタになっていた。その借金を負ったまま兄弟の父親はなくなってしまう。イギリスの会計事務所に勤めるアレクサンドラ(アレックス)・デイカーは大叔父の遺産を精算のためにイタリアのファルネーゼ兄弟の元に向かう。上司のデイヴィッドと共同経営者になるためにまとまった金を必要としていた。
 イタリアに渡ったアレックスを待っていたのは,憎悪の目を向ける兄のリナルドだった。もともとイタリア人の血を引くアレックスはファルネーゼ兄弟の農園での生活で次第に田舎での生活に馴染んでいくと同時に男らしいリナルドに惹かれていく。
 弟ジーノはアレックスに親切にし,次第にアレックスに惹かれていく。3人のすれ違った愛の結末は意外と早く解決するが,ファルネーゼ兄弟の間の溝は次作の伏線となっていく。
 ファルネーゼ家の家政婦テレーザや一家の弁護士イシドーロ(翻訳ではイシードロとなっているが,イタリア語の発音ではイシドーロが本来ではないか?)など,脇役陣も存在感がある。
 リナルドの孤独の背景には15年前に亡くした妻と娘,そして妻の飼い犬だった老犬ブルータスとの別れが圧倒的な存在感をもって語られる。現在3匹の犬と暮らしているという作者の体験が生きている場面。そして,アレックスのフィアンセ,デイヴィッドからの究極の裏切りが,リナルドとアレックスの間を急速に近づける。充実の1作。